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一過性脳虚血発作
一過性脳虚血発作
-解説-
一過性脳虚血発作(TIA)とは、一時的に血液が脳に十分に行きわたらずに「力が入らない」「感覚がおかしい」「言葉がうまく話せない」「目の前が真っ暗になった」などの神経症状が起き、24時間以内に改善するものを指します。一過性脳虚血発作は、脳梗塞の前駆症状と考えられています。2009年の米国心臓協会、脳卒中協会(AHA/ASA)の論文では、「TIAとは脳、脊髄または網膜の局所的虚血による一時的な神経学的機能障害で急性梗塞を伴わないもの」と定義されています。一過性脳虚血発作は非常に問題視されていますが、理由は一過性脳虚血発作を治療しないで放置すると、3か月以内に15~20%の方が脳梗塞を発症します。さらにそのうち半数は発作を起こしてから48時間以内に脳梗塞になることがわかりました。つまり一過性脳虚血発作を起こした場合は症状が軽快しようが、速やかに病院を受診し、検査・治療を始めれば、その後の脳梗塞発症の危険を減らせることが可能です。これらの事実から脳卒中を専門とする医師の間では、一過性脳虚血発作は脳梗塞の重要な「前触れ発作」「警告発作」であり、早期受診、早期治療が必要な緊急疾患という認識です。怖いと思うかもしれませんが、脳梗塞が完成してしまうと後遺症は一生残ります。手足の麻痺から痺れ、場合によっては寝たきりの状態から死亡です。この発作は脳梗塞の前触れとして非常に重要ですので、この発作時に放置しなければ一生続く後遺症を回避することが可能です。脳梗塞治療ガイドライン2009においても次のように記載されています。
・「一過性脳虚血発作(TIA)を疑えば、可及的速やかに発症機序を確定し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始しなくてはならない(グレードA)」
・「TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160-300mg/日の投与が推奨される(グレードA)」
-原因-
主に2つの原因があります
①動脈硬化
一過性脳虚血発作の多くは動脈硬化が原因で起こります。太い動脈(特に頸部の頸動脈)に動脈硬化が起こると、その表面に血栓という血の塊が付着します。 この血栓がはがれて脳に運ばれます。脳の細い動脈に血栓が引っかかると脳に血液が回らずに麻痺、失語などの症状が出現します。血栓が小さい場合は、すぐに溶けて流れ去ってしまうため、血流が回復して症状も消えてしまいます。また脳内の血管が動脈硬化で細くなっている場合、低血圧などで血流が更に低下して一過性脳虚血発作を起こすことがあります。
②心臓
心原性脳塞栓症の章で解説しましたが、心房細動という不整脈があります。他心筋梗塞や人工弁も原因になるのですが、心臓内に血栓が形成されて一過性脳虚血発作の原因になることもあります。
-検査-
一過性脳虚血発作が生じた場合は基本的には脳梗塞に準じた検査を行います。まずMRI、CT、頚動脈エコー、心電図、心臓エコーが必要です。
-治療-
脳梗塞に準じた治療を行います。つまり原因が動脈硬化の場合、アテローム硬化性脳梗塞に準じ内科的治療ならば抗血小板薬、頚動脈の狭窄率によってカテーテルによるステント留置術や外科的にCEAを行います。(詳細はアテローム血栓性脳梗塞の章参照)心臓に原因がある場合は抗凝固療法を行います。(詳しくは心原性脳塞栓の章を参照)