眼科 脳神経外科
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脳疾患を知る

5-5
一般的な動脈瘤と手術手技が困難な動脈瘤

概要

「未破裂動脈瘤に対する治療」の章で問題点を列記しました。先述したとおり難易度が低い一般的な動脈瘤であれば、一般的な脳神経外科医(術者当時の私を含め)で可能ですが、特殊な動脈瘤の手術は、ある特定の医師でなければ安定した成績を残せないのは事実の一つである事を記載しました。しかしながら未破裂動脈瘤と診断された方は、ご自身の動脈瘤が一般的な動脈瘤なのか、それとも難易度が高い動脈瘤なのか判断することは困難です。そして、仮に難易度が高いことが判明してもどの病院を選択すれば、その道のエキスパートに出会えるか悩む機会は多いかと思います。インターネットの普及のおかげで以前に比べれば、情報量が増えたため、その道のエキスパートは探しやすくなったかと思います。しかしながら逆に怪しい情報や自画自賛しかしていないような情報もネット上にはあふれかえっています。一つの選択肢として提案するならば、同じ病院内に手術班とカテーテル班が存在しチーム医療を行っている病院ならば大きな間違いはないかと思います。理由は開頭手術を行う方が有利なのか、カテーテルによるコイリングが有利なのかの判断を一つの場で提案できるからです。この章ではどのような動脈瘤が一般的な動脈瘤で、どのような動脈瘤が特殊な技術が必要な動脈瘤なのかを解説します。

一般的な動脈瘤とは

全ての動脈瘤は千差万別で「動脈瘤の存在部位」と「動脈瘤の大きさ」だけから難易度は決められないので、個々の例については術者とじっくり相談する以外に解決方法はありません。しかし存在頻度が高い動脈瘤は、術者にしてみれば遭遇する確率が高いので一般的といえます。つまり治療法が確立しており術者にしてみても日常的に慣れています。その意味から①好発部位②大きさ③形状から「一般的な動脈瘤か否か」を判断できます。

好発部位から

 前交通動脈動脈瘤・内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤・中大脳動脈動脈瘤は存在頻度が高いため、サイズが大きくなければ一般的な動脈瘤といえます。

動脈瘤の大きさ

 動脈瘤をクリップする際に周囲の正常組織と剥離して、正常組織に影響が出ないようにする必要があります。そのため大きければ周囲組織との剥離が困難になり難易度が上がります。一般的に小さい方が難易度は下がります。一概に何ミリ以上が難易度が高いか

 は他の要素との兼ね合いがありますが、7.8mm以下のサイズですと一般的なサイズと言えます。

動脈瘤の形状

 脳動脈瘤には以下の2種類のタイプがあります。ひとつは嚢状動脈瘤で脳動脈の分岐部にできた風船状の動脈瘤です。これが最も頻度が高い脳動脈瘤です。一方、紡錘状動脈瘤という脳の血管自体が膨らんでできた動脈瘤です。破裂してくも膜下出血になるもの、

 脳梗塞になるもの、大きくなり脳を圧迫するもの、安定しているものなど病態の異なるいくつかのタイプがあります。本幹動脈瘤の中で有名なものは解離性動脈瘤です。嚢状動脈瘤が一般的と言えます。

困難な動脈瘤

開頭クリッピングが困難な動脈瘤も定義が難しいのですが

 

・proximal(中枢側の血管)確保が困難な動脈瘤

・サイズが大きい動脈瘤

・重要な穿通枝(細い血管)が絡む動脈瘤

・動脈瘤先端から重要な血管がでている

 

などがあげられます。以下これらの動脈瘤の治療手技が困難な理由を記載します。

 

proximal(中枢側の血管)の確保が困難な動脈瘤

proximalの確保が困難な脳動脈瘤とはどんな動脈瘤なのでしょうか。代表的な動脈瘤は 内頚動脈動脈瘤・paraclinoid aneurysm (傍前床突起部動脈瘤)と呼ばれる動脈瘤です。

通常脳動脈瘤の手術を行うには、動脈瘤が存在する部分まで顕微鏡を用いて脳と脳の間隙を拡げ(多くは前頭葉と側頭葉の間のシルビウス裂という間隙を拡げます)動脈瘤に到達します。しかし動脈瘤に到達したから即クリップという訳にはいきません。動脈瘤を周囲の癒着した正常脳や正常血管から剥離して、他の正常組織に影響のない形でクリップをしなければなりません。この剥離操作を行っている間は、常に動脈瘤が破裂するリスクがあります。仮に操作中に破裂してしまうと大出血を招きます。その結果、術野は血の海。周囲の正常構造物も判別がつかなくなってしまいます。そのため万が一、手術中の破裂を招いた際に即座に出血のコントロールを行えるように動脈瘤剥離操作を行う前に保険をかけなければなりません。それがproximal(中枢側の血管)の確保です。動脈瘤より中枢側(心臓側)の血管を露出して、いつでも血流を遮断可能な体制を整えてから剥離操作に移るのです。いざというときに中枢血管を遮断すれば動脈瘤に血流が行かなくなり止血可能なのですが、おなじく正常脳にも血流が遮断されますので、遮断可能な時間は脳梗塞に陥らない数分間に限られます。一般的な動脈瘤は脳と脳の間隙を拡げ動脈瘤を露出する段階で中枢血管を確保できます。しかしparaclinoid aneurysm (傍前床突起部動脈瘤)の手術の際には術野から動脈瘤より中枢の血管を確保することは困難なので頸部にて内頚動脈を確保する必要があります。さて paraclinoid aneurysm(傍前床突起部動脈瘤)の手術の手順は

1・頸部内頚動脈の確保

2・広くSylvian fissureを開放(前述した前頭葉と側頭葉の間隙を拡げる行為です)

3・前床突起の削除と視神経管を開放

4・optic strutを切開

5・硬膜輪を切開しクリッピング         の5点となります。

 

1.頸部で内頚動脈を確保します。

2.脳と脳の間隙を拡げていくと最終的には頭蓋底といって脳の底の骨にぶつかります。このparaclinoid aneurysm(傍前床突起部動脈瘤)は、この脳の底の骨の更に下に存在するのです。つまり脳の間隙を最終地点まで開放したにも関わらず、目的とする動脈瘤は最終地点の更に奥先にあるのです。戦場にに到達したと思ったら断崖絶壁。本当の戦場は、断崖絶壁の先あるといったイメージでしょうか。この動脈瘤を邪魔する構造物は「前床突起と呼ばれる骨」と「視神経管と呼ばれる骨」なのです。

3.つまり次のステップは前床突起と視神経管の開放が必要なのです。簡単に前床突起と視神経管の開放といっても、この構造物の下(つまり見えていない部分)には内頚動脈と視神経、蝶形骨洞が位置しています。開放する方法は様々ですが、この場は手術手技を語る場ではないので成書に譲ります。つまり不用意な手技は視神経、内頚動脈、蝶形骨洞の損傷を招く結果につながります。

4.次にoptic strutの切開にうつります。optic strutとは視神経と内頚動脈に挟まれる部分に存在する骨の突っ張りのことです。視神経と内頚動脈はoptic strutを挟み上下に接する形で走行しています。視界の確保が困難で、ドリルで削る場合は摩擦熱で視神経を損傷する可能性があります。また視神経から分岐する眼動脈という細い動脈を損傷する可能性がある非常に繊細な作業となります。

5.次のステップは「硬膜輪を切開」です。先述の「前床突起という骨」を切除すると、前床突起を覆っていた硬膜という膜が連続して内頚動脈の外膜に移行しています。これが硬膜輪です。distal dural ringとも呼ばれます。硬膜輪は内頚動脈を全周性に囲んで固定していますので、硬膜輪から開放してあげないと内頚動脈は可動性が保てず、眼動脈起始部を剥離することが出来ません。眼動脈に対しては非常に繊細な作業が要求されます。これらの非常に繊細な作業が終了してから動脈瘤の剥離とクリップが可能なのです。

 

近年の血管内治療の発達・普及により同部位の動脈瘤に対する塞栓術の適応が拡大しつつあります。内頸動脈paraclinoid aneurysmは、血管内治療の治療対象としてコイリング術など血管内治療が行われることが多くなっています。 しかし動脈瘤から血管が分枝している、動脈瘤柄部が広い 、サイズが大きな動脈瘤の場合などクリッピング術の適応になるケースがまだまだ多いのも事実です。そしてコイリング術については,破裂動脈瘤に対する急性期の再出血予防効果は認められていますが、未破裂脳動脈瘤に対する長期成績は不明であり、特に若年者に対して「患者の希望」「手術手技が困難」という理由のみで推奨出来るかは疑問が残ります。開頭術が技量が必要とお話をしましたが、それでも開頭術は長期予後が非常に優れています。この部位の動脈瘤に扱い慣れている術者であれば、過度に怯える必要はないかと想われます。コイリング術のメリットのみで考えず、長期予後・塞栓術中破裂リスクなどをしっかりと考えなければいけない問題かと思います。特にコイル術中に破裂を起こした場合は緊急で開頭術を行わなければなりません。そのような時に開頭術を行えるエキスパートがいない病院ですと非常に深刻な事態を招きます。つまりコイルを行うにせよ、手術班・血管内治療班が優れた病院を選ぶ事が重要になります。

巨大な動脈瘤

次に巨大な動脈瘤が手術手技が困難な理由を記載します。巨大な動脈瘤が問題となるのは「周囲正常組織との剥離が困難」という理由と「生き残さなければならない血管を絡んでいる」という理由があります。つまり他の困難な動脈瘤例に挙げられた「重要な穿通枝(細い血管)が絡む動脈瘤」「動脈瘤から重要な血管がでている」動脈瘤の手術手技にも絡む問題があります。

最大径10ミリ以上のものを大型動脈瘤、25ミリを越えるものを巨大動脈瘤といいます。こういった動脈瘤は出血のみならず、腫瘤として脳や脳神経を圧迫して症状を出します。大型・巨大動脈瘤は、頻度は全動脈瘤の約5パーセント程度ですが、その破裂のしやすさ・症状の出やすさ、また治療成績の悪さから巨大動脈瘤のエキスパートに患者が集中します。25ミリ以上の未破裂脳動脈瘤の死亡率は8パーセント、後遺症の率は25パーセントであり、自然予後は不良で治療成績も満足いくものではありません。

具体的に困難な理由を自験例を元に解説します。下画像の動脈瘤は大きさ40ミリある巨大動脈瘤です。

右眼痛と外転神経麻痺による複視を長年経過観察していました。このサイズですと周囲組織から剥離することは困難ですし、クリップを行う事も出来ません。コイリングを行う事も出来ません。このような場合、新たに血管を作りかえるバイパス術を行うしか方法はありません。

バイパス術は2種類あります。

  • 頭の皮膚の血管を使う、浅側頭動脈ー中大脳動脈バイパス
  • 手の血管の撓骨動脈を採取し血管をつなぐハイフローバイパス

となります。これら2種類のバイパスを利用して動脈瘤のある動脈は閉塞して血流が動脈瘤に行き渡らなくする方法です。親動脈を閉塞しますので、当然動脈瘤より先にある脳にも血流が行き渡らなくなり脳梗塞を起こします。脳梗塞を起こさないように動脈瘤より中枢の頸部から橈骨動脈という腕から搾取した動脈を用い、バイパスを作成し安定した血流を脳に送る方法です。限られた時間内に細い血管を全周性に安定して縫合する必要があり、高度の技術が必要とされます。