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脳疾患を知る

7-12
甲状腺眼症

概要

甲状腺眼症は主にバセドウ病(稀に橋本病)などの甲状腺の疾患に伴ってみられる眼窩組織(眼瞼や涙腺、球後軟部組織の外眼筋や脂肪組織など)の自己炎症性疾患です。甲状腺機能亢進症がなくても、甲状腺自己抗体を持っていると発症する可能性があります。その結果、免疫異常が影響し眼の奥の外眼筋や脂肪にリンパ球が集まり外眼筋の腫大を生じることで眼球突出、複視、瞼の腫脹、瞼がつり上がる、流淚、充血、浮腫、眼痛、視力低下などといった症状が現れます。症状は、特に午前中に強いといった傾向があります。診断基準としては自己免疫性甲状腺疾患が認められ、特異な眼症候を呈し、MRIなどの画像診断にて眼球突出、外眼筋の腫大などを認め、それらの原因が特発性眼窩炎、眼窩内腫瘍、IgG4関連眼疾患、偽腫瘍、肉芽腫、悪性リンパ腫、粘液嚢胞、頸動脈-海綿静脈洞瘻などが否定される必要があります。

症状

キーワードとして

 

ー両側性ー

通常両側性ですが、左右差があることが多いです。稀に片側性のこともあります。

 

ー朝に強い症状ー

代表的な症状は上述しましたが、最大の特徴は午前中に強い傾向があります。複視、眼瞼腫脹などの症状で受診した場合は重症筋無力症との鑑別が非常に重要となります。甲状腺眼症に気づくためのポイントの一つは「一番調子が悪いのは朝」、重症筋無力症に気づくためのポイントの一つは「夕方になるにつれ調子が悪くなる」ことです。

 

ー下顎を挙げるー

その他に、顎を上げてものを見ている場合は甲状腺眼症を疑う一つのポイントです。甲状腺眼症は下直筋が罹患筋になることが多い疾患です。眼球の下方に存在する下直筋が眼を下に引っ張っているため上方を見にくくなります。逆に下方は向きやすいのです。

 

「上方を見ると複視が強い」

「階段の上りが怖い」

「顎をあげて下方を見るのが楽」

 

などのキーワードを聞いたら必ず甲状腺検査とMRI検査を行いましょう。

眼球突出眼が飛び出す 人が見ると眼球が突出しているように感じますが、ご自身は眼球突出として自覚していることは  少なく、「瞼が腫れてる」と感じて眼科を受診します。
複視物が二重に見える・複視を主訴に眼科を来院されるケースは非常に多いです。
斜視両眼がまっすぐ向かない
兎眼眼が閉じられない
眼瞼腫脹まぶたが腫れる
眼瞼後退眼が大きくなる
眼奥痛眼の奥が痛む
充血まぶたや白目が赤くなる
圧迫性視神経症視力低下

サイン

 

・ダルリンプル症候(Dalrymple’s sign):

「びっくり眼」とも言われます。驚いたときのようなギョロ眼です。つまり眼を大きく開き、黒眼の上下に白目が見えている状態です。驚いたときのように上眼瞼がつり上がって、眼窩の中に引き込まれるように縮こまり、黒目のまわりに白目がむき出しになるような徴候です。このような眼になるには、眼球自体が前に突出する場合か、眼球は突出しないが瞼が後ろに下がった場合に起こりえます。甲状腺眼症、Machado-Joseph病/脊髄小脳変性症3型(MJD/SCA3)が代表的疾患です。

 

・グレーフェ症候(Graefe’s symptom):

甲状腺眼症では眼球が下を向くときに上眼瞼の運動が遅れ上の白目が現れます。瞼の運動が遅れる症状をグレーフェ症候といいます。

 

・メビウス症候(Moebius’s symptom):

近くを見るときに左右の眼を中央に寄せることを輻輳といいます。つまり「寄り目」のことです。甲状腺眼症では輻輳障害を起こします。メビウス徴候とは近くを見ればものが二重に見えるといったものです。

 

・ステルワーグ症候(Stellwag’s sign):

甲状腺眼症では瞬きが減少します。瞬目減少をステルワーグ症候といいます。乾いた眼を我慢しながら、眼をガッと開いている状態です。

重症筋無力症との鑑別および合併症

重症筋無力症との鑑別について症状の面から前述しましたが、実は合併しているケースも多いと言われています。両者の合併率はおおよそ10~30%程存在すると報告されています。症状で見極める方法は、

 

・「朝・夕どちらが症状が悪いか」

 

を確認します。更に鑑別のポイントは

 

・「同じ斜視であっても甲状腺眼症は筋肉が肥大、拘縮して眼球を一方に引き込む拘縮性パターンなのに対して、重症筋無力症は麻痺して動かなくなる麻痺性パターン」

 

といった違いがあります。

しかし、実際の診断にはMRIにおける眼窩内評価と血液検査が重要となります。複視で検索される場合当院では、甲状腺関連自己抗体および抗アセチルコリン受容体抗体両者測定しております。また頭蓋内MRIと眼窩内MRIの同時撮影は非常に時間を要します。お身体の負担を考慮して頭蓋内検索と眼窩内検索別々に行っております。順序としては複視、眼瞼下垂の原因として命に関わる疾患である脳卒中や動脈瘤の発見が優先されるため脳MRIを行います。同日に重症筋無力症や甲状腺眼症の採血を行います。これら採血検査は特殊な検査のため、結果が出るまでにおよそ9日間かかります。結果の出る9日以降に予約を取って頂き、結果説明および2疾患が陽性の場合に眼窩内MRI撮影を追加撮影しています。

重症度分類

 

ー最重症ー

失明の危険性がある状態です。重症悪性眼球突出症、甲状腺性視神経症または角膜潰瘍、穿孔、壊死がある状態で早急な治療が必要です。

 

ー中等症から重症ー

失明の危険性はないですが、眼症状により日常生活に影響が出ている状態です。以下の症状のうち1つ以上を呈します。

・2mm以上の眼瞼後退(眼裂開大>10mm) 

・中等度ないし高度の軟部組織所見(顔貌の変化をきたす程度)

・18mm 以上の眼球突出

・周辺視や正面視で複視(恒常性複視)

この場合は免疫抑制剤(活動性ある場合)もしくは機能回復手術(非活動性の場合)が必要となります。

 

ー軽症ー

日常生活の影響が僅かな状態です。

・2mm 未満の軽度眼瞼後退(眼裂開大8~10mm)

・軽度の軟部組織所見

・15~18mm未満の眼球突出

MRIを撮影し経過観察または病態に応じた治療を行います。

MRI評価

MRI撮影法

MRIは診断をつける目的以外にも病態把握や免疫抑制療法の効果予測に有用なため、撮影を推奨されています。眼窩拡大3mmスライスにてT1撮影またT2・T2 STIRにてAxi・Sag・Cor撮影にて確認します。それぞれのシークエンスの意味合いですが

 

・T1強調画像:

眼瞼の状態、眼球突出度、後眼窩容積、外眼筋腫大度などを定量的に評価

 

・T2強調画像:

活動性の評価に使用

 

・STIR        

信号強度比で活動性の評価に使用します。

 

MRI評価

 

①眼球突出度の測定

水平断で眼球が最もよく見えるスライスで、両眼窩外縁(頬骨縁)を結ぶ線を引き、角膜頂点よりこの線へ下ろした垂線の長さを計測します。21mm以上または眼球後面までの距離が5mm以下。

 

②外眼筋腫大

冠状断で外眼筋の厚みが視神経径より大きい場合または5mm以上の場合を腫大ありと判定します。下直筋肥大が圧倒的に多数です。

 

③T2:STIR

高信号になる場合があり活動性と相関しています。

治療

最重症の眼症以外は、最初の治療は甲状腺専門医の内科が行います。当院では早期診断後、甲状腺治療に長けた専門医施設に紹介しております。そのため治療内容に関しては詳しくは解説しません。以下簡単に記載します。内科的治療終了後に眼科治療となります。まず最初に全例、禁煙を勧めます。まずは甲状腺機能の正常化をはかる事が目的となります。最重症例は眼症の治療を優先しますが、中等症~重症例は活動性があれば免疫抑制療法や放射線照射療法、非活動性であれば眼科的な機能回復手術の適応となります

最重症例の治療

ステロイド・パルス療法を開始します。ステロイド投与後、2週間頻回の視力測定やフリッカー値測定を行い、改善しなければ眼窩減圧術を検討します。活動性がある場合はパルス療法と放射線外照射療法を併用します。

中等症~重症例の治療

中等症~重症例は活動性があれば免疫抑制療法や放射線照射療法、非活動であれば眼科的な機能回復手術の適応となります。

軽症例の治療

眼瞼腫脹や上眼瞼後退が認められ、MRIで眼瞼部炎症、眼瞼脂肪組織の腫大や上眼瞼挙筋の炎症がある場合、トリアムシノロンの局所投与を検討します。ボツリヌス毒素の局所投与の有効性も報告されています。

 

ⅰ)ステロイド療法

もっとも一般的な治療法です。甲状腺眼症の活動性がある比較的早い病期にステロイド剤を内服すると眼の症状が軽減します。また、複視やまぶたの腫れにはその部位にステロイド剤を注射する場合もあります。いずれも病期が遅い安定期では効果が期待できないようです。

 

ⅱ)放射線療法

眼球突出が著しい場合、眼球の奥の脂肪組織に放射線をかけると眼球突出が軽減します。その効果は、眼球突出度計で1~2mmで、完全に治せるほどの効果ではありませんが、病状の進行を止める意味で効果的です。

 

ⅲ)手術による治療

目を閉じられないほど眼球突出が著しい場合、眼窩内脂肪(眼球奥の脂肪)を減らす手術(眼窩減圧術)を行うことがあります。また、複視がひどい場合は斜視の手術が行われることがあります。