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脳疾患を知る

7-7
水平眼球運動

水平眼球運動の制御について

脳幹には眼球運動に関係する動眼神経核、滑車神経核、外転神経核が存在し、これらの各々の核に線維を送り、連動することによって水平眼球運動を制御するシステムが存在します。そのシステムは2つ存在し

 

・内側縦束

(MLF:medial longitudinal fasciculus)

          と

 

 ・傍正中橋網様

(PPRF:paramedian pon- tinereticular formation)

 

の2つがそれに当たります。これらのどこかで障害が起きると水平性眼球運動障害を来します。

水平眼球運動

①水平方向に眼球の動きをコントロールするには、前頭第8野(FEF: frontal eye field)からPPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)という側方注視中枢へ刺激が入ります。前頭第8野とは大脳皮質前頭葉の背外側部に存在する眼球運動野です。視覚的にとらえた目標に向かって眼球運動するときの注意や運動の発現に関わっています。

②PPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)とは橋に存在する水平方向の注視中枢です。右のPPRFは右眼の外側(右)への注視を指示します。

両目で右に注視するという事は右眼は外側(右)、左眼は内側(右)に向かなければなりません。左眼を内側(右)に向くように指令するのはPPRFではありません。左の内側縦束(MLF:medial longitudinal fascicu- lus)が左動眼神経を介して左眼を内側(右)を向くよう指令を出します。つまり前頭第8野(FEF: frontal eye field)から両目で右を向くように指令を出すと、まずPPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)という側方注視中枢へ刺激が入ります。ここから2つの指令が出ます。

 ②-A  ひとつ目の指令は右のPPRFから右眼に外側(右)へ注視する指示です。これは右(同側)の外転神経に指令を出し、右(同側)の外直筋に右(同側)を向く指令を出します。

 ②-B ふたつめの指令は、左眼を右(内側)を向かせる指令です。左眼が内側を向くには、左眼の内直筋に指令を出す必要があります。内直筋に命令を出すのは動眼神経です。つまり逆の眼には外転神経とは異なる神経に指令を出させる必要があります。

そこでPPRFは同側の外転神経に右眼を右に向かす指令を出す一方で、中脳に上行し、MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)に左眼を内側に向くように指令を出します。そうして左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)から左動眼神経核に指令が伝わり、左動眼神経を介して左眼の内直筋に右(内側)を向かせる指令を出します。

この経路のいずれかが障害されると、眼球が水平方向へ共同運動をすることが出来なくなります。その結果、眼位がずれ複視が生じます。

MLF症候群 INO(internuclear ophthalmoplegia:核間麻痺)

(症状)

 

 A 病側眼の内転障害

 B 輻輳は正常

 C 健側眼の外転時眼振および外転緩徐化

 

(症状の解説)

 

 A 「病側眼の内転障害」についての解説

   (左MLFが障害された場合の解説)

 

MLFが障害されることで、病側眼球(左眼)が内転することが出来ない病態を指します(外転神経核と動眼神経核の間の線維が障害されるため、核間麻痺(INO:internuclear ophthalmoplegia)とも表現します)。

前述したように水平運動は最初に、前頭第8野(FEF: frontal eye field)から両目で右を向くように指令を出すと、PPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)という側方注視中枢へ刺激が入ります。ここから2つの指令が出ます。

ひと目の指令は右のPPRFは右眼の外側(右)への注視する指示です。これは右(同側)の外転神経に指令を出し、右(同側)の外直筋に右(同側)を向く指令を出します。ここまでは問題ありません。

PPRFは同側の外転神経に右眼を右に向かす指令を出す一方で、中脳に上行し、左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)に左眼を内側に向くように指令を出します。そうして左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)から左動眼神経核に指令が伝わり、左動眼神経を介して左の内直筋に右(内側)を向かせる指令を出します。この左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)が障害されるので左眼(病側)は右(内側)を向くことが出来ません。一方で逆方向への水平運動は問題なく行えます。

 

 B 「輻輳は正常」についての解説

輻輳とは寄り目の事です。ここで輻輳について説明します。

近くを見る際に起きる反射を近見反射といいます。近見反射はピントを合わせる調節反射と寄り目を行う輻湊反射から成ります。

 

 (調節反射)

見ている物が近づいたり遠ざかったりしたときに距離に応じてピントを合わせる機能を調節反射といいます。

 

 (輻湊反射)

遠くを見てから急に近くを見るときに両眼が内転(いわゆる寄り目)すると、瞳孔が収縮します。これを輻輳反射といいます。調節反射と輻輳反射を合わせて近見反射といいます。

輻輳の中枢神経機序は十分に明らかになっていません。近くを見ようとする視覚情報が眼球から視神経を伝わり、後頭葉に入ると側頭後頭連合野に情報が送られます。側頭後頭連合野では輻輳・調節・瞳孔の指令を視蓋前野・上丘・小脳に伝えている。これらの情報が中脳の動眼神経核背側にある中脳近見反応細胞midbrain near-response neuronに入り、動眼神経核に指令が伝わり輻輳が行われます。

このように輻輳は内側縦束(MLF:medial longitudinal fasciculus)を介さない反射のため輻輳の障害は起きません。

 

C 健側眼の外転時眼振および外転緩徐化

 (左MLFが障害された場合の解説)

上述したように病側の眼は内転出来ません。(この場合、左MLF障害で左眼の内転障害)一方で、健側眼(右眼)は外側を見ることが出来ます。この時点で左右の眼の動きは大きくずれてしまうので複視が強く現れます。健側眼(右眼)は複視を補正しようとして強い眼振が出現します。この際に健側の急速相が大きく現れるのですが、患側眼(左眼)も力及ばずながら複視の補正を行いますが健側眼ほど補正を行う力がありません。両眼の眼振の大きさに解離を認めるため、解離性眼振(dissociated nystagmus)と表現します。

 

・MLF症候群の原因:

脳血管障害と脱髄性疾患が主な原因となります。脳血管性障害は高齢者で多く、片側性がほとんどです。多発性硬化症を代表とした脱髄性疾患によるMLF症候群は若年者が多く、両側性障害として現れる事が多いです。両側性のMLFは高度の外斜視を呈し、特徴的なHESSチャートとなります。重度のものでは両眼とも外転位をとり、wall-eyed bilateral internuclear ophthalmopleiaを呈します。脳血管性障害は予後は比較的良好です。MRI画像は微小梗塞であると描出されずに原因として提示できない場合もあるため注意が必要です。

PPRF(右PPRFが障害された場合)

復習になりますが、水平運動は前頭第8野(FEF: frontal eye field)から両目で右を向くように指令を出ると、PPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)という側方注視中枢へ刺激が入ります。ここから2つの指令が出ます。

②-A ひとつ目の指令は右のPPRFから右眼に外側(右)へ注視する指示です。これは右(同側)の外転神経に指令を出し、右(同側)の外直筋に右(同側)を向く指令を出します。

②-Bふたつめの指令は、左眼を右(内側)を向かせる指令です。左眼が内側を向くには、左眼の内直筋に指令を出す必要があります。内直筋に命令を出すのは動眼神経です。つまり逆の眼には外転神経とは異なる神経に指令を出させる必要があります。

そこでPPRFは同側の外転神経に右眼を右に向かす指令を出す一方で、中脳に上行し、MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)に左眼を内側に向くように指令を出します。そうして左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)から左動眼神経核に指令が伝わり、左動眼神経を介して左眼の内直筋に右(内側)を向かせる指令を出します。

右PPRFを介して同側の外転神経に同側眼を外転させる指令、反対側MLFに反対側眼に内転させる指令を出す部位が障害されるので、どちらの指令も送れません。つまり、病側への側方注視が両眼とも出来なくなります。通常PPRFと外転神経核は解剖学的に近接しており、PPRF単独で障害されることはありません。通常、右外転神経核も同時に障害されます。このため随意だけではなく、不随意にも眼を外転できなくなります。MLFと同じ理論で輻輳を行う際には左眼の内転は可能です。

One-and-Half(右One-and-Half)

(症状)

 

A 病側眼(右)の内転障害

B 輻輳は正常

C 健側眼(左)の外転時眼振および外転緩徐化

 

広範な脳梗塞や脳出血によって右PPRFと右MLFを巻き込んで障害された場合をone and a half症候群と言います。水平運動にはまず、前頭第8野(FEF: frontal eye field)から両目で右を向くように指令を出すと、PPRF(paramedian pontine reticular formation:傍正中橋網様体)という側方注視中枢へ刺激が入ります。ここから2つの指令が出ます。

ひとつは右のPPRFは右眼の外側(右)への注視する指示です。これは右(同側)の外転神経に指令を出し、右(同側)の外直筋に右(同側)を向く指令を出します。次にPPRFは同側の外転神経に右眼を右に向かす指令を出す一方で、中脳に上行し、左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)に左眼を内側に向くように指令を出します。そうして左MLF(medial longitudinal fasciculus:内側縦束)(反対側)から左動眼神経核に指令が伝わり、左動眼神経を介して左の内直筋に右(内側)を向かせる指令を出します。まず右PPRFを介して同側の外転神経に同側眼を外転させる指令、反対側MLFに反対側眼に内転させる指令を出す部位が障害されるので、どちらの指令も送れません。つまり、病側(右)への側方注視が両眼とも出来なくなります。

 

・両眼とも病側注視不能

 

それに加えて右のMLFも障害されるため、

 

A 病側眼(右)の内転障害

B 輻輳は正常

C 健側眼(左)の外転時眼振および外転緩徐化

 

が起こります。

 

右を向く際に右外直筋も左内直筋も動きません。左を向く際に左外直筋は収縮しますが、右内直筋は収縮しません。つまり二つの眼の水平眼球運動のうち、一つと半分が障害されているためone and a half症候群と呼ばれます。この場合も輻輳は基本的に行えます。

主訴としては外斜視による複視を訴えることが多いです。病側(右)は両方向とも動かず、対側(左)の眼球だけは外転だけは可能です。原因としてMLF症候群などと同様に橋被蓋梗塞などの血管障害が多く、多発性硬化症を中心とした脱髄性疾患が次ぎます。平均3ヶ月で自然寛解する場合が多いですが、ボトックス外眼筋注射や正面視で斜視による複視が残存すれば外眼筋後転中心の手術を行います。