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脳疾患を知る

12-3
性行為に伴う頭痛

特徴

性行為によって誘発される一次性頭痛です。

まず「一次性」と記載されていますが、「一次性」が存在するには「二次性」が必ず存在します。「性行為による一次性頭痛」は「性行為による二次性頭痛」が全て否定されて初めて成り立つ概念です。大事な内容ですので、ここで「一次性」「二次性」について復習します。一次性頭痛とはCTやMRI検査、場合によっては血液検査の結果、頭痛を引き起こす原因が認められなかった頭痛です。性行為によって引き起こされる「二次性」頭痛はくも膜下出血、椎骨動脈解離、脳出血、脳梗塞、RCVSなどの致死的な恐ろしい疾患が多数存在します。むしろ性行為頭痛を引き起こす原疾患が存在する二次性頭痛の方が圧倒的に多く、画像検査と性行為による頭痛に対して見識の深い頭痛専門医の診断が必要とされる疾患です。

 

性行為中の頭痛は

①性行為に伴う一次性頭痛

②くも膜下出血、椎骨脳底動脈解離性動脈瘤、脳出血、脳梗塞、RCVSなどの脳卒中による二次性頭痛

に分けられます。

致死的な疾患の②をCT・MRIなどの検査によって否定されて初めて①の診断がつけられます。

くも膜下出血
脳出血
脳梗塞
椎骨脳底動脈解離性動脈瘤
RCVS(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)
一過性可逆性脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES)

性行為による二次性頭痛

性行為による二次性頭痛の各々疾患については以下を参照してください。

 

くも膜下出血について:

https://kuwana-sc.com/brain/category/stroke/

 

脳出血について:

https://kuwana-sc.com/brain/category/stroke/

 

脳梗塞について:

https://kuwana-sc.com/brain/category/stroke/

 

椎骨脳底動脈解離性動脈瘤について:(作成中)

 

RCVSについて:

https://kuwana-sc.com/brain/736/

 

一過性可逆性脳症(PRES)について:

https://kuwana-sc.com/brain/742/

『性行為に伴う一次性頭痛』の診断基準

ここから先は性行為に伴う一次性頭痛について解説します。

 

『性行為に伴う一次性頭痛』の診断基準(ICHD-3β)です。ICHD-Ⅱでは、オルガスム前頭痛とオルガスム時頭痛と区別していましたが、改定によってなくなりました。

 

A.B-Dを満たす頭部または頚部(あるいはその両方)の痛みが2回以上ある

B.性行為中にのみ誘発されて起こる

C.以下の1項目以上を認める

   ①性的興奮の増強に伴い、痛みの強さが増大

 ②オルガスム直前か、あるいはオルガスムに伴い突発性で爆発性の強い痛み

D.重度の痛みが1分-24時間持続、または軽度の痛みが72時間まで持続(あるいはその両方)

E.ほかに最適なICHD-3の診断がない

(日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳:国際頭痛分類 第3版)

 

大事な点はあくまでも「E.ほかに最適なICHD-3の診断がない」が条件です。

 

先述した「性行為による二次性頭痛」を否定しなければ、この診断には至りません。このページを読んでいるということは恐らく「性行為による頭痛」を経験し、頭の中に何か問題があるのでは?と不安を抱えている方だと思います。出来ることならば「性行為による一次性頭痛」であって「性行為による二次性頭痛」であって欲しくないと考えるのが自然です。しかし、二次性頭痛を否定するためにはCT・MRI撮影が必要です。

CT撮影ではくも膜下出血、脳出血は診断可能です。しかし脳梗塞、椎骨脳底動脈解離性動脈瘤、RCVS(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)、一過性可逆性脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES)はMRI撮影が必要不可欠な検査となります。椎骨脳底動脈解離性動脈瘤以外は通常のMRI撮影で診断が可能ですが椎骨脳底動脈解離性動脈瘤は通常のMRA撮影のみでは悩む例が一定数存在するため、当院では「性行為」に誘発された頭痛の方は、必ずCISS法といった特殊な撮影法で椎骨脳底動脈の1mmスライスの断面像を確認しております。

 

CTとMRIの違いについては

https://kuwana-sc.com/brain/113/

を参照してください。

 

結論としてCT・MRI(MRA・CISSを含む)が必要です。

 

疫学

様々な理由からこの症状を持つ患者が病院を受診する割合は非常に低く、正確な統計がありません。それ故、大規模調査や論文も非常に少なく正確な有病率は不明です。

全人口の1%との報告がありますが、実際にはもっと多いようです。当院のホームページの閲覧数を確認すると、相当な数の閲覧があるため悩まれている方が非常に多いのだと感じます。

男女比では男性の方が多いようです。実際に受診するケースは男性は女性の10倍程と差がみられます。しかし、女性がこの症状を男性医師に相談するのは容易い事ではありません。実際悩まれている女性患者は多く存在すると思われます。

解説

前述したように「性行為に伴う一次性頭痛」は、頭痛を引き起こす原因がある二次性頭痛を全て否定されて初めて診断がつきます(詳しくは一次性頭痛と二次性頭痛の違いを参照( https://kuwana-sc.com/brain/104/ )。と申しますのは、性行為中の脳卒中(二次性頭痛)は決して稀な疾患ではありません。脳卒中(https://kuwana-sc.com/brain/category/stroke/)つまり、くも膜下出血や椎骨脳底動脈解離性動脈瘤、脳出血、脳梗塞、RCVSなどの致死的な恐ろしい頭痛は性行為中に発症する事は稀なことではありません。一度目の性行為中の頭痛は警告出血とよばれる前触れの出血で、適切な検査や治療を行わず二度目の出血により致命傷となるケースは珍しい事ではありません。初めて経験する激しい頭痛や過去に経験した頭痛と異なるタイプの頭痛が出現した場合は特に注意が必要です。

 

(頭痛のタイプ)

ICHDの初版ではオルガスム前・オルガスム時・性行為後の3種類に分けられていましたが、第2版で性行為後の頭痛は髄液漏出が原因と考えられ特発性低髄液圧性頭痛にコードされる事となりました。そして第3版ではオルガスム前頭痛とオルガスム時頭痛のサブフォーム化がなくなりました。ちなみにオルガスム前頭痛とオルガスム時頭痛は、前者が鈍痛、後者は爆発的な痛みで患者の大半はオルガスム時頭痛です。オルガスム時の頭痛は爆発的な痛みで、通常は両側性で後頭部に多いとされています。

 

(持続時間)

頭痛の持続時間は通常1分から3時間と考えられていますが、確かなデータはありません。72時間程続くと言われる方もおります。

 

 

(発症年齢)

発症年齢は20歳代と40歳前後の2つのピークがあります。

 

 

(合併症)

性行為に伴う一次性頭痛は一次性労作性頭痛,片頭痛との関連性が約50%の症例で報告されています。 片頭痛、緊張型頭痛、一次性労作性頭痛を合併する患者が多いです。

エビデンスのある資料はないのですが、過去に治療された性行為による一次性頭痛の方の多くは高血圧を合併していました。特に30−40代と若年発症の高血圧で自分が高血圧になるとは思っていなく、指摘しても最初は素直に受け入れません。

血圧手帳を記載して頂き、毎日の血圧を確認し始めて納得される方が大半です。しかし性行為による一次性頭痛の治療に加え、降圧治療を開始すると寛解するケースがほとんどです。

高血圧につきましては

https://kuwana-sc.com/brain/category/hypertention/を参照してください。

若年発症の高血圧が合併しているので、当然といえば当然ですが睡眠時無呼吸症候群の合併も非常に多いです。この場合も睡眠時無呼吸症候群の治療を並行して開始すると寛解するケースが大半です。

睡眠時無呼吸症候群につきましては

https://kuwana-sc.com/brain/2216/を参照してください。

 

 

性行為中の脳卒中・心疾患について

さてこの章を読んでいる方の多くは「性行為に伴う一次性頭痛」を心配するよりも二次性頭痛のくも膜下出血、脳出血、脳梗塞、椎骨脳底動脈解離性動脈瘤、RCVS(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)、一過性可逆性脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES)などの死亡に繋がる頭痛を心配して様々な情報を集めているかと思います。さて、性行為中の激烈な頭痛が即死亡に繋がるケース(いわゆる腹上死)と死亡には至らず正しい診断、治療を経て救命されるケースがあります。

死亡につながるケースは古くから腹上死と呼ばれます。元気な人が突然死する場合は、医師法第21条によって変死届をすることが義務になっています。そのため詳しい膨大なデータが存在する一方で、死亡に至らずに後日病院を受診して大事には至らなかったケースは報告義務はありませんのでデータとしては少数の論文程度となります。腹上死の膨大なデータでは腹上死の原因は心血管系疾患が6割をしめ、脳血管系は4割程のようです。一方、死亡に至らずに後日病院を受診して大事には至らなかったケースは情報が少ないのですが、私の先輩である岐阜大学医学部客員教授豊田泉教授が調査した結果では

 

(疾患)

脳出血6割・くも膜下出血4割・性交死のもう一つの原因である心臓死は、性交為中の急死は意外に少なく、性行為数時間を経た就寝中などに急死するものが多いそうです。

 

(関係)

愛人・性風俗78%、夫婦間22%

 

また興味深い点として初診時の問診において、発症が性行為前後と正しい情報が医療者に伝わるものは22%と少数。ほとんどが後日に関係者から知り得た情報であった事です。つまり性行為中の脳卒中の多くは本人達の秘密に埋もれている可能性があります。

 

診断に至るにあたって重要な事

上述の豊田氏の報告からも性行為中に起こった頭痛は医師に申告するのは勇気のいる事です。診察室には医師以外のスタッフもいます。躊躇するのはやむ得ない事かと思います。しかし「性行為中」というキーワードが診断には非常に重要です。当院では初診時の頭痛問診票に「頭痛を引き起こす誘引」という欄の選択肢の一つに性行為を入れています。そこにチェックを入れて頂けると診断の一翼を担える事になるかと思います。

治療

オルガスムス前頭痛では性行為の中断により頭痛発作が治まることが多いようです。本疾患の治療に関しては症例数が少ないこともあり,十分な科学的根拠を有するものがありません。現状では患者への疾患の説明やカウンセリングが重要であると言われています。薬物療法はインドメサシン,エルゴタミン,プロプラノロールが有効な症例が報告されています。インドメサシンが有効で、インドメサシンを使用すると予後は良好で、多くが自然寛解するようです。また先述した合併症の治療が有用と考えています。性行為による一次性頭痛の方の多くは高血圧を合併していました。性行為による一次性頭痛の治療に加え、降圧治療を開始すると寛解するケースがほとんどです。若年発症の高血圧が合併しているので、当然といえば当然ですが睡眠時無呼吸症候群の合併も非常に多いです。この場合も睡眠時無呼吸症候群の治療を並行して開始すると寛解するケースが大半です。

 

当院での対応

「性行為に伴う頭痛」は、症状を伝えるに勇気がいります。おそらくは頭の中に何か爆弾を抱えているのでは??と不安になりネット検索をするものの安心材料には繋がらず受診するべきか悩むのが自然な事だと思います。また、他の頭痛ほどメジャーな頭痛ではないため、「どこの医療機関に受診すればいいのか」「どう相談すれば良いのか」悩むかと思います。HPの閲覧件数を確認していると、想像を超えた数多くの方が閲覧しており、実はメジャーな頭痛なのでは?と私自身は考えております。受診をためらったり、受診したものの大事な「性行為」の一語を伝えられず誤った診断が下され正確な数を把握出来ていない可能性が高いと考えております。仮に勇気を出して相談したとしても「性行為に伴う頭痛」についての知識を十分に持っていない医師ですと、期待した答えが返ってこないため萎縮している方もおられます。当クリニックでは、そのような悩みの方々が関東東海地方のみならず、全国から受診されています。そのため医師のみならず診療スタッフから受付事務員も「性行為に伴う頭痛」に対して熟知しております。頭痛の問診表にも誘因欄に性行為をチェックする項目がありますため、安心してご相談下さい。