10-3
舌咽神経痛
特徴
舌咽神経痛は、ものを飲み込む時、会話、咳などする時に喉や舌の奥、耳の周囲に痛みが出てくる症状の事を言います。片側性,一過性で,激烈な,刺すような痛みです。典型的三叉神経痛のように寛解と再発を繰り返すことがあります。
診断基準
A.B およびC を満たす片側性の痛み発作が少なくとも3 回ある
B.痛みは舌の後部,扁桃窩,咽頭,下顎角直下または耳のいずれか1つ以上の部位に分布する
C.痛みは以下の4 つの特徴のうち少なくとも3項目を満たす
①数秒~2 分持続する痛み発作を繰り返す
②激痛
③ズキンとするような,刺すような,あるいは鋭い痛み
④嚥下,咳,会話またはあくびで誘発される
D.明らかな神経学的欠損がない
E.ほかに最適なICHD-3 の診断がない
(日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳:国際頭痛分類 第3版)
疫学
舌咽神経痛は非常に稀な疾患です。性別では女性、年齢では50歳以上に多く、発症率は10万人あたり0.2~0.7人程度と推定されております。三叉神経痛と同様の症状があり、1%の人は三叉神経痛と舌咽神経痛を合併するとされています。
原因
舌咽神経とは喉、舌の後方から耳にかけての感覚を担っている脳神経の一つです。神経は喉、舌、耳から神経線維が集まり1本の神経にまとまって、脳幹という脳の中心部に入ります。その舌咽神経の走行過程で強い圧迫を受けることで、舌咽神経に刺激が走るのです。圧迫の原因は、周囲を走行している血管(後下小脳動脈、前下小脳動脈)が圧迫していたり、脳腫瘍が圧迫していることもあります。他にも多発性硬化症、パジェット病、イーグル症候群、中咽頭腫瘍、舌腫瘍、外傷などの報告があります。
舌咽神経痛も三叉神経痛同様に血管に圧迫を受けた典型的舌咽神経痛、脳腫瘍や多発性硬化症、外傷、キアリ奇形などの原因がある二次性舌咽神経痛、証拠がない特発舌咽神経痛の3種類に分類されます。MRIによる舌咽神経周囲に走行する血管の存在。血管の舌咽神経との接触、圧迫所見。又は腫瘍の存在。多発性硬化症などの原因を探る必要があります。
解説
(部位)
ほとんどは左右どちらかの片側性です。舌後方、扁桃、中咽頭、喉頭を中心とする喉の痛み、および耳管、耳介後部、下顎角であるため患者はノドと耳の痛みを訴えます。
(性質)
電撃様、打つような、刺すような、鋭い激痛です。症状が重度なため体重減少を来したり、不安、抑うつ傾向が強いです。
(時間)
1回の痛み発作は数秒から2分程度続き、平均30秒程です。激烈で反復性で毎回同じ部位が痛みます。この反復する症状は日単位・週単位・あるいは月単位で持続します。
(誘発)
嚥下、会話、くしゃみ、咳に誘発されます。発症初期は嚥下時に痛みが生じますが、片側の痛みのため、歯やあごの痛みと感じやすく、歯科に受診する人が多い傾向にあります。
(随伴)
2%の方に迷走神経刺激により不整脈や失神、心停止を伴うことがあります。
治療
第一選択薬はカルバマゼピン(テグレトール)です。しかし、これは根本的な治療ではありません。痛みを完全にコントロールできない場合や、再発してしまったりする事があります。三叉神経痛よりも早期に外科的手術に移行することが多いです。手術は神経を圧迫している血管を剥離して、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取るという微小血管神経減圧術が効果があります。これは顔面痙攣や三叉神経痛と同じ治療法です。