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脳疾患を知る

3-1
臓器障害の評価

さて高血圧と診断がつき、降圧剤を選択する前に2つのことを考えなければならないことを説明しました。2つのこととは

 

一つ目は高血圧の原因。

二つ目は臓器障害の程度

 

ここでは二つ目の臓器障害について解説します。

高血圧ガイドライン2020においても高血圧患者の臓器障害の評価は重要であることが記されています。高血圧含め、脂質代謝異常症や糖尿病などの生活習慣病は自覚症状が乏しいですが、ジワジワと確実に全身の血管、臓器を蝕みます。高い血圧に目を背けたり、甘い血圧管理でお茶を濁している間に血管はボロボロとなります。これら生活習慣病がサイレントキラーと言われる理由はここにあります。血圧治療を行っている場合は、面倒でも必ず臓器障害の評価を行い、適切な目標血圧の設定と臓器障害に適した降圧剤の選択を行う義務があります。さて高血圧治療ガイドラインにおいて重要視されている臓器は①脳②眼③心臓・血管④腎臓⑤下肢動脈が挙げられます。

私は外来で高血圧、脂質代謝異常、糖尿病の治療を行う際に必ず「今現在あなたはどのステージにいるため、どの治療薬が必要で、どう予防すれば良いか」を説明します。簡単に当院で説明に用いている用紙の一部を抜粋しますが、第1ステージ・第2ステージ・第3ステージに分けて解説しています。

第1ステージ

高血圧のごく初期で自覚症状はほぼありません。「健診でひっかかった」「かかりつけの医者に高血圧と言われ薬をもらっている」程度から頭痛などの軽い自覚症状を認める程度です。多くの方は血管系の検査(脳MRA・頚動脈エコー・冠動脈3D-CTAやカルシウムスコア・腎動脈エコー・ABI・下肢MRAなど)を行わない限り、もしくは第3ステージの破綻を招いた後の最悪な自覚症状を経験しない限り、自分の血管がどのように蝕まれ、降圧剤がどれだけリスクを下げてくれているのか気づくことはないでしょう。第1ステージは臓器障害の程度を検証し、臓器障害は引き起こされていないが、純粋に血圧だけが高い状態を言います。この時点で降圧治療が開始されれば、予防効果は非常に大きいです。

 

第2ステージ

第1ステージの段階で、高い血圧を放置したり、薬は飲んでいたものの管理が甘かったために全身の血管が蝕まれていった状態です。さて血管が蝕まれるといっても全身のあらゆる血管が同じように蝕まれるわけではありません。蝕まれる血管に偏りがあることが分かっています。高速道路の自然渋滞を考えて下さい。事故があるわけでもないのに必ず混んでる自然渋滞ポイントがあります。同じように人の体の血管にも狭窄を起こしやすい部位に偏りがあります。太い血管、大血管では①脳・眼動脈②頚動脈③心臓の冠動脈④腎動脈⑤下肢動脈の5つの血管に狭窄が起きやすいことが分かっています。細い血管、小血管では①脳の中の細い血管②眼の動脈③腎臓の細い血管が蝕まれます。「いつもの薬出しときますね」ではなく、しっかりと血管の現在の状況を把握しましょう。この時点で蝕まれている血管の部位と程度が分かれば、降圧剤の選択やステント、血行再建などで第3ステージの最悪な状況に進行することを防ぐことが可能です。

 

第3ステージ

第2ステージで蝕まれた血管に対して適切な発見と適切な時期での治療を行わなければ、破綻を招きます。破綻とは脳出血、脳梗塞、くも膜下出血など重度の後遺症または死亡を意味します。一旦、これらの疾患によって破壊された脳細胞は元の状態に戻ることはありません。寝たきりになったり、麻痺を持った場合はいかなる治療を行っても元の体に戻ることはありません。心臓の冠動脈の破綻は心筋梗塞です。心筋梗塞によって死亡したら、生き返ることは出来ません。腎動脈の問題で透析が必要な状態になったら一生透析が必要です。病院勤務の時代は私はこれら破綻した結果、引き起こされた脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などを治療しておりました。寝たきり、麻痺などは当たり前、いかなる手術を行おうが元の身体に戻ることは困難です。現実は更に厳しく、大学病院に入院できるのは急性期(概ね2週間)です。急性期を超え、外科的治療が終了すると転院・退院を強く勧めます。次の急性期患者を受け入れないといけないのが大学病院の使命だから当然です。多くの方は、設備の整わない慢性期病院や在宅治療となります。気管切開、胃瘻、ベッド上での生活が長期間続きます。望んでなる方などいません。つまり第3ステージに陥る前に予防をしなければ意味がないのです。自覚症状がないと高血圧の厳しい管理を行わない。しかし第3ステージの自覚症状を経験してから予防治療を始める・・・・第3ステージの自覚症状を一生味わう前に予防を開始することをもう一度真剣に考えて下さい。