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7-5
降圧ー薬物療法 RA阻害薬ー

RA阻害薬-ARBとACE阻害剤-

先述したようにカルシウム拮抗薬は「The・降圧剤」難しい事は言わず、切れ味良く血圧を下げ、他の難しい作用は特段なし。その代わり副作用も少ない降圧剤でした。カルシウム拮抗薬と同じ降圧剤の第一選択薬であるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン阻害薬(RAS阻害薬)(ARBとACE阻害剤)についてここから解説します。血圧を上げるホルモンのレニン-アンジオテンシン(RA)系を阻害するお薬のARBやACE阻害剤はRA阻害薬薬とも呼ばれます。(以後RAS阻害薬)これらはカルシウム拮抗薬が「The・降圧剤」であるのに対して「降圧剤+臓器保護剤」として扱われます。具体的には脳血管・心臓・腎臓などの臓器を保護する力を持ち合わせています。それだけ聞くと非常に優秀なお薬に感じますが、カルシウム拮抗薬と比較するると副作用が増えます。妊娠、高K血症、両側腎動脈狭窄のある方には使用が出来ません。ここではこれらRA阻害薬について解説します。

レニン-アンジオテンシン系とは

腎臓の輸入細動脈にある傍糸球体細胞からレニンというホルモンが分泌され、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIという物質をつくります。アンジオテンシンIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIに変換されます。アンジオテンシンIIは全身の動脈を収縮させるとともに、副腎皮質からアルドステロンを分泌させます。アルドステロンはNaを体内に溜める働きがあり、これにより循環血液量が増加して心拍出量と末梢血管抵抗が増加します。これらによって血圧が上昇します。これをレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System;RAAS)といいます。

そのシステムとは別にカリクレイン-キニン系という血圧を降下するシステムも存在します。

RA阻害薬とは

RA阻害薬とは上述したレニン-アルドステロン系システムを妨害することによって血圧を上げさせないようにするお薬です。これらホルモン一連の上流から

・レニン阻害薬(アリスキレン:ラジレス)

アリスキレンは、レニンの作用を直接阻害し、血圧上昇を抑えます。しかしエビデンスが足りず第一選択薬に用いられることはありません。

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)

カプトプリル:カプトリル

リシノプリル:ロンゲス

エナラプリル:レニベース

アラセプリル:セタプリル

デラブリル:アデカット

ペリンドブリル:コバシル

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は高血圧の治療に用いられ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することでアンジオテンシンⅡの産生を抑制します。

・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

第一世代

ロサルタン:ニューロタン

バルサルタン:ディオバン

カンデサルタンシレキセチル:ブロプレス

第二世代

テルミサルタン:ミカルディス

オルメサルタン:オルメテック

イルベサルタン:アバプロ

アジルサルタン:アジルバ

これらアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)も高血圧の治療に用いられ、アンジオテンシンⅡ受容体を阻害することで血圧上昇を抑えます。

ARBとACE 阻害薬の違い

よく「ARBは咳の副作用がなくなったACE阻害薬だ」といったセールス文句のような解説がありますが、そんな文句を鵜呑みにすると大事な点を見落とします。まず両者の作用機序を整理すればおのずと両者の相違点が分かります。

ARBとACE 阻害薬は図の如く、高血圧の原因となるレニン-アンジオテンシン(RA)ホルモンを阻害する降圧剤で、現況カルシウム拮抗薬と並び降圧剤の第一選択薬としてのポジションを築きあげています。まずは両薬剤がどのように作用し、何を目的として使用するのか解説します。

ACE阻害薬:

アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害して昇圧系を抑制するほか、カリクレイン-キニン系を刺激して降圧系を促進する作用を有します。

ARB:

アンジオテンシンⅡが作用する受容体(特にAT1受容体)を直接的に阻害して昇圧系を抑制します。カリクレイン-キニン系刺激は行いません。

カリクレイン-キニン系刺激を行う薬か、行わない薬か。この点が両者の決定的な違いとなります。結論を言うとACE阻害薬には冠動脈疾患に対する抑制効果のエビデンスが豊富です。そのためACE阻害薬は、腎臓や心臓、血管、脳などの臓器保護作用が認められています。このため、糖尿病、蛋白尿、心不全、心筋梗塞の既往、脳循環不全などを有する患者に適しています。ARBは、ACE阻害薬よりも冠動脈疾患に対する抑制効果のエビデンスが足りないものの、降圧効果強力で、副作用は少ないです。

腎保護作用について)

慢性腎臓病(CKD)の治療の概念は、その後に併発する心血管イベントの抑制に関わります。CKDを合併する高血圧治療にはRA阻害薬は必須とされ、ARBとACE 阻害薬ともに降圧剤、腎臓保護薬として扱います。腎臓の保護は降圧自体が重要です。それには他の種類の降圧剤も重要ですが、特に腎保護はRA系の抑制が重要となります。特にCKD合併患者では130/80mmHg以下の降圧が推奨されています。

ARB

血圧はさまざまな要因により調節されていますが、最も大きな影響を与えるのがレニン‐アンジオテンシン(RA)系のホルモンです。その中でアンジオテンシンIIには強力に血圧を上昇させる作用があります。ARBはアンジオテンシン受容体を遮断することにより、血圧を下げます。(図)またアンジオテンシンⅡは、腎臓にある糸球体の出口の血管(輸出細動脈)を狭くして、糸球体の中の圧力(糸球体内圧)を上昇させます。その結果、蛋白尿は増加し、糸球体過剰濾過を助長します。ARBは、その作用も抑制するため、腎臓に対して保護的に働きます。ただ、糸球体濾過量は減るので、見かけ上、血清クレアチニン値が上昇することがあります。30%以上の上昇がなければ、飲み続けることによって腎保護作用が得られると考えられています。30%を超える場合は、両側の腎動脈狭窄の可能性があるため、減量または中止にせざる得ません。

ARBの種類と使い分け)

国内販売されているARBは図の如く7種類有ります。これらの使い分けについて

・降圧作用の強さから使い分ける

・尿酸排泄作用の有無より使い分ける

(ロサルタン,イルベサルタンは,腎臓からの尿酸排泄を促進する作用があります)

・バルサルタンは大規模なデータ改ざん事件があったので避ける医師も多いです。

ACE阻害剤

ACE阻害剤を咳の副作用があるARBと捉えられている方がおりますが、それではACE阻害剤を適切に使用出来ません。ACE阻害剤の最大のポイントはなんといっても

 

・冠動脈疾患に関する有効性のエビデンスが証明

ACE阻害薬は、降圧と独立した冠動脈イベント抑制効果をもちます。一方でARBには冠動脈イベントの抑制効果は認めません。

日本循環器学会ガイドラインでは、急性心筋梗塞後の全例で発症24時間以内のACE阻害薬の開始が推奨されています。米国の心臓病学会AHA/ACCの推奨としては、「動脈硬化疾患患者のRA系阻害薬の第一選択はACE阻害薬であるべき」と記載されています。ARBを使用する条件は①ACE阻害薬に忍容性の無い心不全②EF40%以下の心筋梗塞後の2パターンが推奨されています。

・RA系抑制作用+カリクレイン-キニン系亢進作用

先述しましたが、ARBはRA系抑制作用しか有しませんが、ACE阻害薬は図の如くカリクレイン-キニン系亢進作用を有します。ACEはブラジキニンを不活化する作用もあり、ACE阻害薬によってブラジキニンが蓄積します。このブラジキニンが蓄積することによって様々な効果を生むのです。その最大の効果が冠動脈疾患に関する有効性となるのです。

・降圧効果は?

一方で降圧効果に対してはARBが優れています。

レニン阻害薬(アリスキレン:ラジレス)

アリスキレンは、レニンの作用を直接阻害し、血圧上昇を抑えます。RA系を上流で抑制し、組織AngI濃度を減少させるため、ACE依存性・非依存性に関わらず組織AngII濃度を有意に減少させます。ACE阻害薬やARBとの併用ではなく、単独使用におけるレニン阻害薬については未知の部分も多いです。血中半減期が非常に長く副作用も少ない薬ですが、心血管イベント抑制効果についての実績がACE阻害薬やARBと比較して全くありません。現時点で進行中の大規模試験はありますが、臓器保護の観点からは心血管事故や腎予後、生命予後に対する影響は十分明らかにされていません。現在の立ち位置としてARB、ACE阻害剤を使用しないでレニン阻害薬を用いる状況はほぼないのが現状です。