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治療前に行う事ー原因精査ー
高血圧の原因は?
さて高血圧と診断がつきました。すぐに降圧剤を選択する前に2つのことを考えなければなりません。
一つ目は高血圧の原因
二つ目は臓器障害の程度
さて一つ目の高血圧の原因ですが、高血圧に単一原因があるのか?加齢や生活習慣の複合的な要素が原因ではないのか?と考える方も多いと思いますが、それは本態性高血圧いわゆる普通の高血圧です。治療を開始する前に一度考えなければならない原因とは二次性高血圧のお話です。さて二次性高血圧とは何か?まずは二次性の言葉の意味を説明します。例えば頭痛の話になりますと、必ず「原因となる疾患が存在しない一次性頭痛」と「脳出血やくも膜下出血、脳腫瘍など原因となる疾患の結果、頭痛が引き起こされる二次性頭痛」を鑑別するためにCTやMRI検査を行います。原因となる疾患の存在が引き起こしている病態の場合に二次性と呼びます。同様に高血圧についても「原因となる疾患がない一次性高血圧(本態性高血圧)」と「原因のある疾患によって引き起こされる二次性高血圧」と使い分けています。二次性高血圧の原因の多くは原発性アルドステロン症や褐色細胞腫、クッシング症候群などの腫瘍であるケースが多いです。これら腫瘍など高血圧の原因が存在する二次性高血圧の場合は、本態性高血圧とは病態、治療方針が大きく異なります。二次性高血圧は通常の治療に対して反応が悪い治療抵抗性のため、原因を同定しないで治療を開始すれば闇雲に薬の内服量が増えでしまう結果となります。薬を適切に内服しているのに目標血圧が達成出来ない場合は、一度振り返って二次性高血圧を考える必要があります。全高血圧の10%以上が二次性高血圧と言われています。
二次性高血圧を疑う所見
・若年発症の高血圧
・重症高血圧
・治療抵抗性
・急激な発症
・脳血管、心血管、腎血管など臓器障害が激しい
・血圧の変動が大きい
測定項目
さて二次性高血圧を調べるには内を調べれば良いのでしょうか?簡単に調べるスクリーニング方法としては血液検査となります。血液検査の項目は
・レニン
・アルドステロン
・アドレナリン
・ノルアドレナリン
・hANP
・BNP
・ACTH
を測定します。
レニン・アルドステロンの評価
二次性高血圧の中で最も頻度の多い疾患が原発性アルドステロン症という内分泌疾患です。原発性アルドステロン症のスクリーニングには血漿アルドステロン濃度 (PAC)、血漿レニン活性(PRA)の測定が必要になります。この2項目は、原発性アルドステロン症以外の多くの疾患の評価に大変有用な検査です。現在カルシウム拮抗薬に次いで使用される降圧剤のRA系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)によってレニンの活性は変化するのため、厳密にいうと二次性高血圧を疑わす患者ではRA系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)内服薬開始前に血液検査を行う事が重要です。日本内分泌学会のガイドラインでは原則、高血圧患者全例に血漿アルドステロン濃度 (PAC)、血漿レニン活性(PRA)測定を行うように記載されています。
ホルモンの値は採血時刻、体位による影響を受けるため早朝から午前9時の安静臥床での採血が望ましいと言われています。またRA系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)を内服していると薬の影響も受けるため、RA系阻害薬内服中の場合は、一旦RA系阻害薬を2週間中止後に採血することが推奨されています。カルシウム拮抗剤あるいはα遮断薬を内服している場合は問題ありません。しかし実際の臨床の場では既にRA系阻害薬の内服が既に始まっている場合が多いと思われます。その場合、RA系阻害薬内服下でレニン活性<1.0ng/mlの場合は原発性アルドステロン症スクリーニング陽性と考えられます。
アドレナリン・ノルアドレナリンの評価
アドレナリン濃度が100pg/ml以上、ノルアドレナリン濃度が1000pg/ml以上の場合は褐色細胞腫を疑います。
hANP(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド)の評価
hANPの正常値は40pg/mlであり、それ以上の場合はvolume expansionと考えます。腎機能低下、心不全合併された高血圧の患者、原発性アルドステロン症の患者では低レニン性高hANPとなります。一方で悪性高血圧、レニン産生腫瘍、褐色細胞腫の患者ではhANPは低値となります。
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の評価
BNPの基準値は18pg/ml以下となります。心不全では100pg/mlを超え、重症心不全では1000pg/mlを超えます。高血圧におけるHbA1cのような指標で高い血圧が持続していればBNPは上昇します。心不全の評価に用いるほかに白衣高血圧(病院で測定するときだけ血圧が上昇してしまう高血圧)を迷った場合、BNPが低値であれば白衣高血圧の可能性が高いと考えます。
検査の意味
当クリニックでは二次性高血圧鑑別のために上述した項目の測定は必須と考えておりますが、二次性高血圧検索以外にも適切な降圧剤を選択するために有用な指標になります。高血圧患者の血管抵抗性はほぼ上昇しているため、血管拡張を目的としたカルシウム拮抗薬はほとんどの高血圧患者に有効です。しかしながらRA阻害薬であるARB・ACE阻害薬は降圧目的以外に臓器保護を目的とします。RA阻害薬を正しく使用するにはレニンやアルドステロンの基礎値が重要となります。RA阻害薬はレニンアンジオテンシン系を阻害するお薬のため、レニンが上昇している高レニン性高血圧では大きな降圧効果が得られる一方で、元来レニンが少ない低レニン性高血圧には思うような降圧効果は得られません。レニンが低い場合は、闇雲にRA阻害薬を使用するよりも減塩を徹底し、利尿薬を使用した方が降圧効果が得られる場合が多いです。またRA阻害薬の使用は基本的にレニンは上昇し、アルドステロンは低下します。アルドステロンの低下が不十分な場合は、RA阻害薬が不十分であるか、アルドステロンエスケープが生じている可能性を考える必要があります。その場合はアルドステロン拮抗薬やα、β遮断薬が有効と考えます。