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脳疾患を知る

5-4
未破裂脳動脈瘤 治療

未破裂脳動脈瘤の治療は?

残念ながら自然に,もしくは薬物療法で動脈瘤が小さくなったり消失することはありません。

大きく分けて(1)脳動脈瘤クリッピング術(2)脳動脈瘤コイル塞栓術 の2種類の治療が行われています。しかし、治療は100%安全なものではありません。一時的あるいは永久的に手足の不自由、言語障害などの神経学的症状を生じる可能性が3ー5%程度あります。しかしながらこの手術合併症の3-5%という数字も様々な要素で上下します。高齢で全身状態が悪ければ手術成績は悪く、動脈瘤の大きさや形状のため困難な手術であればあるほど成績は悪くなります。

年齢

高齢であればあるほど手術リスクが大きくなります。

全身状態

合併症が多い場合には手術リスクは増加します。

動脈瘤の大きさ

動脈瘤の大きさは大きければ大きいほど周囲の脳組織保護、重要血管の確保が困難になり難易度は増加します。またクリップに際して血流を確保できくなるような動脈瘤の場合は、他の血管から血流を確保するために血管吻合を行います。手術の難易度は高く、高度な技術が必要となります。

動脈瘤の部位

部位によっては手術が出来ない場合もあります。また周囲の穿通枝と呼ばれる非常に細い血管との関係から難易度が高くなる場合もあります。

動脈瘤の形状

形状も重要です。例えば動脈瘤の先端から重要な血管が出ている場合は血管吻合など様々な高度の技術を使わなければならない場合もあります。

 

 

以上が動脈瘤の問題からの治療難易度です。これらをトータルに判断して、手術を受ける方に安心して手術を受けられるようにするのが術者の責任です。手術の合併症とは俗に言う医療ミスとは全く異なります。合併症とは様々な定義がありますが、私が考えるには「現代医療の水準で正しいと言われている治療を、正しい水準で行った際にも起こりうる好ましくない状態」です。当然の話ですが、手術に限らず物事に100%はありません。未破裂動脈瘤は、破裂して「くも膜下出血」になったわけではないので当然ですが症状は何もありません。術後、術前と変わらない状態(無症状ならば無症状)で退院させなければなりません。しかしながらある一定の割合で合併症が存在します。全身状態や動脈瘤の性状からの手術の困難点を記載しましたが、最後に手術の成功率を決める問題を以下に記します。

 

術者の技量

非常にナーバスな問題のため、この内容をこの場で語るには少々躊躇するのですが、術者の技量も非常に大きな要素となります。現在、当院では手術をはじめとする侵襲的な治療は行っておりません。私自身過去20年間、脳動脈瘤手術を中心とした様々な脳卒中治療を行ってきました。20年間非常に恵まれた環境の中で故永田 和哉先生、福島 孝徳教授、上山 博康先生、水谷 徹教授と日本を代表する脳神経外科医に手術手技の指南、薫陶を受けてこられました。現在は術者としての立場は降り、外来診察のみを行っておりますが、他の脳神経外科医師の手術技量を中立的な立場で評価することが出来る立場となりました。困難な動脈瘤であればあるほど特定の医師に患者が集まり続ける結果、手術の技量に大きな格差が生じているのが現状です。このあたりの話は術者として脳神経外科医を生業にしていた当時も難しい内容で、脳神経外科以外の医師では諸事情を含め、中立的な判断を下すのは非常に難しいところであります。難易度が低い動脈瘤であれば、一般的な脳神経外科医(術者当時の私を含め)で可能ですが、特殊な動脈瘤の手術は、ある特定の医師でなければ安定した成績を残せないのは第一線に身を置く立場の医師としては認めたくない事実の一つであります。仮に特殊な動脈瘤に対して経験が少ない若手医師が術者であったとしても、後方で指導する医師が専門性が高く、高度な技術を持ち、安定した成績を残せる事が理想的です。またクリッピング術、コイリング術の両治療を検討するには、単一病院内に各々の独立したチームが編成されている事が理想的かと思われます。つまりチーム編成が出来ていないクラスの中規模病院では治療選択肢の幅が狭まるのも事実の一つであります。脳神経外科の術者を降りた今、困難な未破裂動脈瘤症例を適切な医師の元に導くのが、現在の私の使命の一つかと思っております。当院は様々な理由からセカンドオピニオン外来は行っておりませんが、当院で偶発的に発見された未破裂動脈瘤に対しては最良の選択肢を提示していけると考えております。

さて2つの(1)脳動脈瘤クリッピング術(2)脳動脈瘤コイル塞栓術 は前章のくも膜下出血編で解説してあります。破裂した場合の解説ですが、基本的には同じ手術を行います。以下を参照して下さい。

https://kuwana-sc.com/brain/866/

治療に対する考え方

以上の結果から、未破裂脳動脈瘤が見つかったからすぐに手術を受ける必要はないと考えられます。年間0.95%の破裂率というのは、逆にいうと年間99%以上は破裂しないということです。また3mm未満の動脈瘤は積極的に治療する必要はなく、血圧を管理しながら半年に1回MRI.MRA検査で大きさ、形を見ていけば良いかと考えます。脳卒中ガイドラインには、「開頭手術や血管内治療などの外科的治療を行わず経過観察する場合は、喫煙・ 大量の飲酒を避け、高血圧を治療する(グレードA)。経過観察する場合は半年から約1年毎の画像による経過観察を行うことが推奨される」と記載されています。

これらを総合的に考えなくてはなりません。「大きくない動脈瘤は手術しないで経過をみる」という選択は正しい選択でもあります。しかし「大きくなったら手術をする」というのはどの程度の大きさまで経過を診るのでしょうか?仮に相当大きくなった場合、こんどは大きさ故に手術の難易度は上がります。通常正常組織を傷つけないように動脈瘤と剥離を行い、正常血管に影響がないようにクリップするのが動脈瘤手術です。非常に大きい動脈瘤の場合、小さいサイズと比べると動脈瘤の裏に存在する血管は確認しやすいでしょうか?また待機と言うことは年齢が上がります。年齢があがれば体力は落ちます。高血圧、糖尿病、高脂血症などの合併症は増加します。経過観察は正しい選択なのですが、手術には頃合いというものもあります。なんでもかんでも無条件に経過観察が良いというわけではありません。また後に記載する困難で難易度の高い動脈瘤は、誰もが安定した成績を残せません。一流の脳神経外科医の元に集まります。しかし集まるのはあくまでも破裂する前の自由意志が働く場でのみです。夜間に破裂し救急車で運ばれて動脈瘤のエキスパートに搬送される確率とはいかほどのものなのか。頃合いとタイミングというのも大きく影響するのが未破裂動脈瘤の治療とも言えます。