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頭部外傷-各論(脳振盪)-
脳振盪と言いますと、単純な頭部打撲が小児や高齢者に多いのに対して10代後半から20代前半に多いイメージです。というのはやはりハイスピードな頭部のゆすりを起こしうるスポーツで発生することが多いからです。特にラグビー、アメリカンフットボール、柔道、サッカー、スノーボード、などで多く発生しています。これらスポーツで起きる脳損傷のうち1/3は脳振盪で、引き続き、急性硬膜下血腫が多いです。脳振盪と急性硬膜下血腫の発生機序は類似しており、頭部が急激な揺さぶりを加えられ生じます。後述する急性硬膜下血腫は生命予後が不良な疾患ですが、脳振盪は一時的な機能障害で、脳自体の損傷はなく元に戻る変化です。脳の停電みたいなイメージです。
症状
脳振盪のイメージはスポーツ中に「頭部を強打し意識が飛んでいる」ようなシーンではないでしょうか?しかし軽症の場合は必ずしも意識消失を含む必要はありません。
・意識障害 一瞬程度のものから、重度のもので数時間に及ぶ場合もあります。
・健忘 前後の記憶が混乱し、直後の記憶がはっきりしないことなどがあります。
・めまい ふらふらしていることがよくあります
・頭痛、悪心、めまい、耳鳴り、複視などの自覚症状
これら臨床症状は一般に5-10日くらいで軽快する場合が多いです。IRB脳振盪ガイドラインでは以下の記載があります。受傷後に以下の兆候、または、症状のいずれかが認められたら、そのプレーヤーは脳振盪の疑い があるとみなされ、ただちにプレー、または、トレーニングを止めさせなければならない。
目に見える脳振盪の手がかり – プレーヤーに認められるもの
以下のうちの1つ、または、それ以上の目に見える手がかりがあれば、脳振盪の可能性がある:
• 放心状態、ぼんやりする、または、表情がうつろ
• 地面に横たわって動かない / 起き上がるのに時間がかかる
• 足元がふらつく / バランス障害または転倒/協調運動障害(失調) • 意識消失、または、無反応
• 混乱 / プレーや起きたことを認識していない
• 頭をかかえる / つかむ
• 発作(痙攣)
• より感情的になる / ふだんよりイライラしている
治療
競技中に選手が衝突などで倒れた場合、まずは安静にして休ませ、意識の状態、呼吸、脈拍のチェックを行います。意識がある場合は手足の麻痺、痺れがないかをチェックします。脳振盪の疑いがあれば、即座にサイドラインへ運び出すべきです。サイドラインで頭痛や吐き気、めまいなど頻回にチェックすべきです。また意識障害のあった選手に水を与えてはいけません。吐いてしまい、窒息や誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。IRB(International Rugby Board)脳振盪ガイドラインでは脳振盪、あるいは脳振盪の疑いのある選手は必ず医学的評価を受けることと指導しています。そして脳振盪の疑いがある選手には運動の禁止は当然ですが、24時間は一人にしてはなりません。必ず誰かが一緒に経過をみてあげてください。またアルコールの摂取は厳禁です。
競技への復帰
IRBでは段階的競技復帰が進められています。6段階のステージを決めます。(1安静 2軽い有酸素運動 3スポーツ固有運動 4コンタクトのないドリル 5フルコンタクト(練習参加には医師の証明書が必要) 6競技復帰)
受傷後は14 日間の練習と試合を禁止、安静にして(ステージ1)経過をみます。14 日以上経過して最後の24 時間に症状がない場合にステージ2 に進み、各ステージとも24 時間連続して症状がないことを確認して次のステージに進んでいきます。次に進んだステージで症状が出たら24 時間安静にし、安静にして症状がでなければ一つ前のステージに戻りそのステージの運動から始める。といった具合です。