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頭部外傷-各論(慢性硬膜下血腫)-
原因
頭部外傷に起因する疾患の経過は、いずれも受傷から急速に進行するため、名称も「急性」が頭につくことが多いです。一方で、今から解説する慢性硬膜下血腫は「慢性」との名前の通り、頭部打撲から長い時間をかけて病状が進行する疾患です。「慢性」との名前の通り頭部を打撲してから3週間から6週間という時間経過後に頭の中に血液が溜まります。「硬膜下」との名前の通り、脳と硬膜との間にゆっくりと液体状の血腫が貯留し血腫が脳を圧迫して様々な症状がみられる病気です。通常、軽微な頭部外傷に由来することが多いですが、はっきりとした外傷がなくとも発生することもあり、本症の詳細な原因に関しては現在も不明な点があります。しかし、脳の表面に微量の出血あるいは脳脊髄液がたまって、その反応でつくられる膜から少しずつ出血が繰り返され、血腫が大きくなると考えられています。軽くドアに頭をぶつけた、畳の上で転倒したなど、覚えていないような非常に軽い外傷から、交通事故、コンクリート上での転倒で病院に受診している中等症の外傷まで様々な程度の外傷で発生します。お酒を飲まれる方、血液をサラサラにするお薬を内服されている方、肝機能障害をお持ちの方は特に注意が必要です。乳幼児やとくに高齢者に多く発生します。しかしスノーボードなどスポーツ後の成人例も散見するため油断は出来ません。
症状
典型的には、転倒などで軽度の頭部打撲をされ、その直後には大きな問題がなく過ごされています。病院受診をしていないで受傷すら忘れているようなケースが多いです。また一定数頭部打撲の経験がない方にも発症するケースがあります。頭部打撲後に病院に受診している場合は医師から慢性硬膜下血腫の可能性を説明されていますので、わずかな変化で受診するため軽いうちに発見に至ります。親切な病院ですと受傷3-4週間後に画像検査の予約を予定してくれてます。
頭部打撲から2週間~3ヶ月間ほど経過すると、頭痛、悪心、痺れ、元気がなかったり(自発性の低下)、認知症状の出現や進行がみられることもあります。片麻痺(ときに両側の麻痺)や、これに伴う歩行障害などが明らかとなり、診断に至ります。症状が出たときにはかなりの血腫が溜まっていることが多いです。血腫は徐々に大きくなり脳の圧迫を強めていきますので、放置すれば死に至ることもあります。好発部位は前頭,側頭,頭頂部で、右か左かの一側性のことが多いのですが,時には両側性(約10%)に見られます。その場合は進行も早く両側の麻痺や意識障害が多いです。
診断
きっかけになる頭部外傷の直後では、頭部CTで異常が認められないことがほとんどです。受傷時に慢性硬膜下血腫の説明を行い、3週間ほど後に検査予約を入れ検査すると症状が現れていない程度に血腫が溜まっているケースも多いです。しかし、症状が現れれば血腫によって脳が圧迫されているので、CTで即座に診断されます。もちろんMRIでも診断は容易です。
治療
血腫が少量で症状がない場合には、点滴・内服薬で血腫を減らす治療をすることもあります。治療にもかかわらず血腫が増大する場合は、やはり手術を行います。症状が現れ、その症状が慢性硬膜下血腫による脳の圧迫と適切な説明が出来る場合、手術の適応になります。治療は、基本的に局所麻酔にて穿頭(頭蓋骨に親指の爪くらいの穴を開ける)し、ドレーンと言われる細い管を入れて血腫を除去し、よく洗浄する外科的処置を行ないます。手術自体も脳神経外科の手術の中ではリスクが低い部類に入ります。
約10%の方に除去しても再度貯留する再発例が見られます。一般的には、脳を圧迫する血腫によって症状がもたらされているだけで、脳自体に直接のダメージを受けていません。そのため適切なタイミングで治療が施されれば、症状はすっきりと回復します。通常手術後1週間で後遺症を持たず自宅に退院される方がほとんどです。このため、治療可能な認知症としての特徴を有します。