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新しい片頭痛治療薬「レイボー」について
(従来の片頭痛コントロール)
・片頭痛の治療は現在まで大きく分けて以下の2つの手法からアプローチされていました。
①予防薬
②急性期治療薬
①予防薬は片頭痛の発作自体を予防するためのお薬です。
②急性期治療薬は片頭痛発作が生じた場合、いかにその痛みを鎮めるためのお薬で
A 軽い片頭痛の場合はNSAIDsなど消炎解熱鎮痛薬
B 重い片頭痛の場合はトリプタン製剤
を使用していました。(詳しくは「脳疾患を知る」の片頭痛治療に記載)今回は②急性期治療薬に新しいお薬が登場しました。
このお薬のお話しの前に、今までの片頭痛治療薬での問題点をまとめます。
(従来の片頭痛治療の問題点)
軽い片頭痛発作はNSAIDsと呼ばれる従来から存在する消炎解熱鎮痛剤を使用し、重い片頭痛発作には2000年以降はトリプタン製剤と呼ばれる頭痛薬を使用してきました。重い片頭痛発作は日常生活を大きく障害するため、発作早期に頭痛を鎮めるお薬の存在が必要です。過去には重い片頭痛をコントロールする治療薬が存在せず、我慢するしか選択肢がなかったのですが20年前にトリプタン製剤が発売されました。安全性も有効性も高く救世主のようなお薬ではありましたが、トリプタン製剤にもいくつかの問題が残っていました。
トリプタン製剤に残された問題点
①内服するタイミングが難しい
頭痛発作早期に内服しないと効果が薄く、発作開始から時間が経過した場合は軽減しません。そのため「起床時からすでに痛い場合(夜中に発作が起きていると起床時には既に長時間経過しているため効果がない)」、「最初は軽い頭痛と思い内服しなかった結果、重篤な片頭痛に発展する場合」、「持ち合わせのトリプタンがなかった」場合など発症早期にトリプタンを内服できないとコントロールが難しかった。
②血管に作用するために生じる副作用
トリプタン製剤は脳の神経や血管のセロトニンというところに働いて頭痛の原因物質が出るのを抑制する薬でした。セロトニンは神経だけでなく血管にも作用してしまうので、頭痛を鎮めるのと同時に血管収縮が生じるため脳梗塞の既往のある方や狭心症、心筋梗塞の方、脳血管狭窄症の方には使用することが出来ませんでした。
この2点は切実な問題でしたが、トリプタン製剤発売から20年ぶりに画期的な新薬が登場しました。トリプタンとは違うジタン系の「レイボー」という薬で、6月8日に全国のクリニックで患者さんに処方できる予定となっています。この薬は同じセロトニンでも、脳の神経に特化して作用する薬なので、血管に悪さをしません。内服後に胸が苦しくなるような副作用がないことが特徴です。狭心症や心臓に持病がある人も飲める薬となっています。
(新薬レイボーの画期的な特徴)
①片頭痛消失の評価
今までのトリプタン製剤が頭痛の改善度を見た試験で評価されているのに対して、レイボーは改善度ではなく、頭痛の消失度を見た試験で評価されているので、今までの薬に比べて頭痛が消失する可能性が高い薬と言えると思います。
②内服するタイミングを選ばない
今までのトリプタン製剤は頭痛を悪化させないようにすることがメインの作用だったので、頭痛が起きたらすぐに飲まないといけないというタイミングが難しい薬でした。しかしレイボーは痛くなってから飲んでも効くお薬ですので、タイミングが遅れても効果があります。
③脳の神経に特化して作用する薬
この薬は同じセロトニンでも、脳の神経に特化して作用する薬なので、血管に悪さをしないので飲んだ後に胸が苦しくなるような副作用がないことが特徴です。狭心症や心臓に持病がある人も飲める薬となっています。
これらの特徴はトリプタン製剤に解決出来なかった問題点を解決出来る特徴です。
どのような場合に適しているか?
・トリプタンで片頭痛が改善しない場合
・心脳血管系合併症を持っている片頭痛患者
・発症から時間が経過した片頭痛
・起床時から認められた片頭痛
・発症時間が分からない場合
(めまいの副作用が認められなかった方に限る)
などに適した頭痛薬ではないでしょうか?
(レイボーの機序)
(副作用)
浮動性めまい、傾眠、錯感覚 多くは服用後1時間以内に発現し、数時間で消失しました。
よって高齢者、運転前や起床時への使用は十分注意が必要です。
(注意点)
(トリプタン使用後の投与注意)
トリプタン系薬剤に反応しなかった場合、用量調整や間隔をあけるといった規定はありません。
(片頭痛予防薬との併用)
片頭痛予防薬との併用は可能です。ただし、中枢神経抑制剤、セロトニン作動薬、三環系抗うつ剤・心拍低下を生じる薬(プロプラノロールなど)などは併用注意。CGRP関連薬剤については、Lasmiditanの臨床試験期間中には承認されていなかったため、臨床試験データはありません。
(レイボーの投与間隔)
投与間隔に関する規定はありません。24時間あたりの総投与量が200mgを超えない範囲で服薬
(レイボーは冠動脈疾患・脳梗塞・不整脈・高血圧の既往などの患者に投与可能か)
可能
(肝障害患者に投与可能か)
重症例は慎重投与 他は可能
(腎障害患者に投与可能か)
可能
(レイボーを妊娠を希望する患者、妊婦、授乳婦に投与可能か)
妊婦は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ可能。授乳婦では、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討
(小児に投与可能か)
不可能
(自動車の運転・機械の操作能力への影響は)
自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分注意
(薬剤使用過多による頭痛(MOH)を引き起こすか)
一般に片頭痛の急性期治療薬の過度な頻回使用はMOHのリスクになり得る