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急性期治療(トリプタン-総論-)
概要
トリプタン系薬剤は選択的セロトニン受容体作動性薬剤という種類のお薬です。難しい名前ですが、「片頭痛の頭痛に特化した治療薬」です。いわゆる一般的な鎮痛剤・痛み止めとは全く異なるお薬です。2000年まではトリプタン系薬剤は存在していなく、片頭痛に特化したお薬はなかったため一般的な解熱鎮痛薬・痛み止めで対応するしか手段がありませんでした。そして一般的な解熱鎮痛薬を使用しても、片頭痛発作は起きてしまうと、その痛みを鎮めるのは難しいといわれてきました。しかし2000年に初めてトリプタン製剤のイミグランが発売されました。トリプタン製剤は片頭痛治療にとって革命的なお薬でしたが、販売当初は様々なネガティブな意見も散見しました。しかし多くの使用経験から有効性、安全性の実績が積み重なり今では片頭痛に対する標準治療となりました。発売以降、20年以上にわたる疫学調査・臨床試験データが集積された結果、トリプタン安全性と有効性は定着しています。しかし中には間違った使用法をされている方も見られます。
「トリプタンを内服してはいけない疾患」「内服するタイミング」「内服して良い時間間隔」「トリプタンの選び方」「トリプタンの副作用」・・・・
この章ではトリプタンに対する正しい使用法を解説します。
トリプタン製剤の禁忌例
トリプタン製剤は販売開始以来、数多くの有効性・安全性の実績を積み重ねて片頭痛の標準薬となっております。しかしながらトリプタンを内服できない方も一定数存在します。少なくとも1回は頭部MRIで脳梗塞の既往や血管の狭窄所見が存在しないか?心電図異常が認められないか?血圧は安定しているか?など確認することが不可欠です。トリプタンは血管収縮作用を持つため、以下の方の服用は禁じられています。
1. 狭心症・心筋梗塞などの既往や徴候
2. コントロール不良の高血圧患者
3. 脳血管障害の既往や徴候
4. 末梢血管障害を有す
5. 重度の肝機能障害や腎機能障害
6. MAO阻害剤使用中.投与中止2週内
7. エルゴタミン・エルゴメトリン使用中
8. 脳幹性前兆を伴う・片麻痺性片頭痛
トリプタンを処方する前には必ずMRIで脳梗塞・脳血管狭窄の有無(CTでは厳しいかもしれません)・心電図で心筋梗塞・狭心症の有無・ABIで下肢閉塞性動脈硬化症の有無・採血で肝臓、腎臓機能のチェックを行わずに安易な処方は危険性をはらんでいます。その他SSRI、SNRIといったうつ病や痛みの治療に使用するお薬、HIVプロテアーゼ阻害剤やプロプラノロールといったお薬を内服している方もトリプタンの種類によっては使用できません。トリプタン服用に際しては、必ず医師に現在の持病や内服しているお薬をお伝えください。
トリプタン内服のタイミング
『片頭痛が起こった』と分かってから20~30分以内のタイミングで服用します。
「これから頭痛が来る」と予感がしていても、実際に頭痛が始まらない状態でトリプタンを内服しても確実な効果は期待できません。「片頭痛が起こった」と分かったら開始から20~30分以内といった早いタイミングで服用します。また頭痛がかなり強くな ってから服用しても効果はなくなります。発症早期に内服することが非常に重要です。しかし実際には「前兆のある片頭痛」であるならば分かりやすいのですが、「前兆のない片頭痛」ですと、頭痛は発作早期には軽い頭痛から始まるケースも多いため確実に片頭痛発作かどうか迷うケースが多いかと思われます。本当に片頭痛か迷うのですが、頭痛手帳をつけていくうちに自分の発作に慣れて分かるケースもあります。また発作早期の頭痛が軽度のうちに、動作で頭痛が強くなる感覚があります。「頭を振ったり、深くお辞儀をしてみて、頭痛が強くなったら片頭痛」と自己診断する方法もあります。何度か試してみて、ご自分に合った適切な服用タイミングをつかみましょう。遅くとも頭痛発作開始してから1時間以内に内服しましょう。それ以降、刺激に対して非常に敏感になる「アロディニア」が起こる場合があります。このアロディニアが起こってから服用しても、効果は十分に得ることができません。アロディニアが起こる前に服用するのがポイントです。また頭痛が起きる前に不安から内服するのは、頭痛に有効でないばかりか薬物誘発性頭痛に陥る可能性があるのでやめましょう。
発作早期 可能なら発作開始30分以内
発作前に不安で内服するのはやめましょう。
片頭痛発作か迷ったら頭を振って頭痛が増強するか確認する方法もあります
1時間を超え、特にアロディニアが起こってから服用しても効果は十分に得ることができません。
頭痛が始まってから既に長時間経過している場合の対応
「起床した時点で既に頭痛がある場合」「仕事・会議などで発作開始時に内服できる環境でなかった」「発作開始早期は片頭痛と思わず他の鎮痛剤を内服してしまい時期を逸した」など確実にゴールデンタイムにトリプタンを内服できない場合があります。そのような場合はどうすれば良いのでしょうか?長時間経過してしまった場合、トリプタンは効果が期待できないと言われています。他の消炎鎮痛剤で対応するしかありません。他の消炎鎮痛剤が持っている消炎鎮痛作用をトリプタンは持っていないからです。あくまでもトリプタンはセロトニン受容体に作用する薬なのです。そう言われても適切なタイミング時に必ず内服できるとは限りません。発作開始時の状況にも左右されてしまいます。(例えば会議中で水が飲めない・嘔吐が強くて内服出来ない)そのためトリプタンは多くの形状が用意されています。また現在日本では5種類のトリプタンが販売されております。それぞれ違った特徴を持つため頭痛の発作様式に合ったタイプの治療薬を選択していくことになります。
トリプタンの副作用 トリプタン感覚
トリプタン製剤は重篤な副作用の報告はほとんどありません。安全性が高いお薬です。しかし、副作用が一切認められないお薬は存在しません。現在国内で市販されている5種類のトリプタンの代表的な副作用は、『頚・肩・胸の締めつけ感といった不快感』です。これらの症状は服薬後30分以内に出現する事が多いですが、10分から長くて3時間程持続したら自然に消える症状です。「胸部症候群」『トリプタン感覚」とも呼ばれます。首や胸の締め付け感といった症状を聞くと狭心症や心筋梗塞と結びつくのではないかと不安になりますが、実際は心臓の異常ではないことが証明されています。食道の筋肉の収縮や肺の動脈に対する影響などと考えられています。従ってこれらの症状が出現しても特段の心配は要りませんが、次回の受診時に主治医に報告してください。その他の副作用として眠気や倦怠感などがあります。脱力感をいわれるかたも多いです。しかしトリプタンの種類を変えることによって軽減できる場合が多いです