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脳疾患を知る

1-3
認知症は予防できます

予防可能な認知症

認知症は予防できるのか?認知症は予防可能です。全ての認知症を予防できる訳ではないですが、相当数の認知症は予防することが可能です。2020年、65歳以上の高齢者の人口は3,600万人、全人口の約30%が65歳以上の高齢者という割合です。平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%という割合だったものが2025年には5人に1人、20%が認知症になるという推計もあります。700万人近い方が認知症になると考えられています。

さて認知症といっても、様々な種類の認知症があります。認知症の代名詞とも言えるアルツハイマー型認知症から脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症。これらは4大認知症とも言われております。また治療可能な二次性認知症の慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、感染症、アルコール性認知症、ビタミン欠乏症など様々です。まずそれぞれの疾患がどの程度の人数いるか見ていきましょう。

次に脳血管性認知症は認知症全体の約20%程の割合を占めています。よって140万人程となります。レビー小体型認知症は全体の約12%の割合ですので84万人、前頭側頭型認知症は約1%ですので7万人です。

さて予防可能な認知症といえば、第一に脳血管型認知症となります。おおよそ140万人の方がしっかり予防を行えば、理論上認知症にならずにすみます。また近年、認知症の代名詞とも言えるアルツハイマー型認知症についても中年期からの取り組みで予防が可能な疾患であることが証明されてきています。

予防方法

まず脳血管性認知症とはどのような認知症なのか?脳血管性という名前から予想がつくように血管の病気です。血管性認知症とは脳血管障害によって引き起こされる認知症の事を言います。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの認知症は脳の変性によって引き起こされる訳ですが、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳の血管の病気の結果、認知症に陥っている状態です。アルツハイマー型認知症に次いで、患者が多いとされている認知症です。血管の病気を引き起こす原因は動脈硬化です。動脈硬化の危険因子として、高血圧、糖尿病、心疾患、脂質異常症、喫煙などがあります。脳血管性認知症は、生活習慣によって引き起こされるといえるでしょう。つまり確実に予防が出来る認知症なのです。

(脳血管性認知症は以下で詳しく解説していますので参考にして下さい。)

https://kuwana-sc.com/brain/1782/

https://kuwana-sc.com/brain/1784/

https://kuwana-sc.com/brain/1785/

https://kuwana-sc.com/brain/1787/

https://kuwana-sc.com/brain/1788/

https://kuwana-sc.com/brain/1790/

 

脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳の血管の病気の結果、認知症に陥っている状態なので、血管の病気を引き起こさない努力つまり予防を早期から行えば、予防可能です。

予防の意識を持つのは早ければ早いほど有利です。さてどのように考えれば良いか?

まず何故、国を挙げて生活習慣病、メタボリックシンドローム、特定健診の重要性を訴えているか考えたことはありますか?多くの血管の病気はこれら生活習慣病、メタボリックシンドローム、特定健診の重要性が大きく関わっています。多くの血管の病気とは何でしょうか?脳の血管の病気と言えば脳梗塞、脳出血、くも膜下出血から脳血管性認知症も含まれます。心臓の血管の病気と言えば狭心症、心筋梗塞です。腎臓の血管の病気と言えば腎動脈狭窄や腎不全となります。下肢の血管の病気と言えば閉塞性下肢動脈硬化症です。誰しも脳梗塞を患って寝たきりや半身麻痺にはなりたくないですし、心筋梗塞で死亡することも望みません。腎不全で透析になる事も閉塞性下肢動脈硬化症で足を切断することを望むでしょうか?これらの原因が生活習慣病なのです。

さて、生活習慣病とは食事・運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣が関与し、発症する疾患の総称です。代表例が高血圧・糖尿病・脂質代謝異常です。自覚症状が乏しいため、放置したり見て見ぬふり、自分は違うと思い込み現実から眼を背ける方が大勢います。しかし高血圧・糖尿病・脂質代謝異常は静かに静かにあなたの全身の血管を確実に蝕みます。これを呼んでいる今現在も蝕み続けています。これら生活習慣病がサイレントキラーと言われる理由はここにあります。

私は外来で高血圧、脂質代謝異常、糖尿病の治療を行う際に必ず「今現在あなたはどのステージにいるため、どの治療薬が必要で、どう予防すれば良いか」を説明します。簡単に当院で説明に用いている用紙の一部を抜粋しますが、第1ステージ・第2ステージ・第3ステージに分けて解説しています。

第1ステージ

高血圧、脂質代謝異常、糖尿病のごく初期で自覚症状はほぼありません。高血圧であれば「健診でひっかかった」「かかりつけの医者に高血圧と言われ薬をもらっている」程度から頭痛などの軽い自覚症状を認める程度です。脂質代謝異常は「健診でひっかかった」「かかりつけの医者に脂質代謝異常と言われ薬をもらっている」程度で一部の家族性脂質代謝異常を除き自覚症状を認める方はほとんどいません。糖尿病は「健診でひっかかった」「かかりつけの医者に脂質代謝異常と言われ薬をもらっている」程度から体重減少、多飲、多尿、口渇、痒み、勃起不全、痺れなどの自覚症状を訴える方がおります。

 

第2ステージ

自覚症状がないから放置したり、高血圧、脂質代謝異常、糖尿病の薬は飲んでいたものの管理が甘かったために全身の血管が蝕まれていった状態です。さて血管が蝕まれるといっても全身のあらゆる血管が同じように蝕まれるわけではありません。蝕まれる血管に偏りがあることが分かっています。高速道路の自然渋滞を考えて下さい。事故があるわけでもないのに必ず混んでるポイントがあります。同じように人の体の血管にも狭窄を起こしやすい部位に偏りがあります。太い血管、大血管では

①脳動脈

②頚動脈

③心臓の冠動脈

④腎動脈

⑤下肢動脈

の5つの血管に狭窄が起きやすいことが分かっています。細い血管、小血管では

①脳の中の細い血管

②眼の動脈

③腎臓の細い血管

が蝕まれます。「いつもの薬出しときますね」ではなく、しっかりと血管が現時点でどの程度の状況なのか確認が必要です。

 

第3ステージ

第2ステージで蝕まれた血管に対して適切な発見と適切な時期での治療を行わなければ、破綻を招きます。破綻とは脳血管の破綻は脳出血、脳梗塞、くも膜下出血など危機的な状況となります。一旦、これらの疾患によって破壊された脳細胞は元の状態に戻ることはありません。寝たきりになったり、麻痺を持った場合はいかなる治療を行っても元の体に戻ることはありません。心臓の冠動脈の破綻は心筋梗塞です。心筋梗塞によって死亡したら、生き返ることは出来ません。腎動脈の問題で透析が必要な状態になったら一生透析が必要です。つまり第3ステージに陥る前に予防をしなければ意味がないのです。第2ステージまで自覚症状がないと厳しい管理を行わない。そのため国を挙げて生活習慣病を啓蒙しているのです。

ここでは認知症予防のお話ですので、話を元に戻しますと脳血管性認知症の予防も脳卒中の予防と全く同じ予防法です。

第1ステージ

高血圧、脂質代謝異常、糖尿病など生活習慣病の管理

 

第2ステージ:

蝕まれた血管の早期発見と血管の障害程度に応じた治療

 

が認知症の予防となります。

さて

第1ステージ予防ですが適切な血圧管理、脂質管理、糖尿病管理となります。このあたりのお話はいずれ解説します。現在の管理を行って下さっている主治医の先生にじっくりとお話を聞きましょう。

第2ステージですが、まず血管障害の程度を把握しなければなりません。当院で高血圧・脂質代謝異常・糖尿病など生活習慣病の管理を行っている方々は、定期的に脳血管の状態をMRAで把握し、頚動脈の状態を頚動脈エコー、心臓の状態を心臓エコー、下肢血管の状態をABIやABIで低下を認めたならば下肢MRAを行い、状況の説明を行っております。しかしながら街のクリニックですと限界があります。しかし必要な検査を記載すると

 

脳の状態や萎縮を確認・・・1.5T以上のMRIおよびVSRAD

脳血管の障害の程度・・・・MRA

頚動脈の障害の程度・・・・頚動脈エコー

心臓の障害の程度・・・・・心電図、心エコー

総合的な全身状態・・・・・採血

 

これらの検査を総合的に判断し予防計画を立てるべきかと思います。

ここで、何故「脳」の状態だけでは不十分で頚動脈や心臓の検査が不可欠な理由を説明します。脳血管性認知症の原因は①脳梗塞②脳出血③くも膜下出血の3つの脳血管障害が誘因となります。これらを予防するに当たって視点をどこにおくかが重要です。次はここを解説します。

脳梗塞予防から認知症予防

脳梗塞の予防とは脳梗塞を未然に防ぐ医学的治療です。つまり原因の根を摘む作業です。とするならば原因が分からなければ予防は出来ません。では脳梗塞の原因は何でしょうか?最初の原因は高血圧、脂質代謝異常、糖尿病など生活習慣病ですので先述した一次予防はこの範疇となります。ここで語るのは次の予防です。高血圧、脂質代謝異常、糖尿病など生活習慣病が引き起こした血管障害がどの部位で深刻な状況になっているのかを探り、そこを潰す治療です。となるとどの部位に問題があるのかを探す必要が生じます。脳梗塞とは脳に血液が行き渡らなくなるので、どこに血流が途絶える原因があるのかによって考えます。脳に血液を送る順序は、

『心臓ー太い血管ー脳内の細い血管』

と考えると分かり易いです。

つまり心臓に原因があるケース、心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケース、脳内の細い血管に原因があるケースの3通りがあります。(厳密には血液自体に原因がある血液上の疾患も大切ですが、ここでは割愛させて頂きます)

心臓に原因があるケース:

①心原性脳塞栓症

心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケース:

②アテローム血栓性脳梗塞

脳内の細い血管に原因があるケース:

③ラクナ梗塞

と呼びます。この3つを鑑別し予防治療を行います。

 

心原性脳塞栓症

「心臓」に原因がある脳梗塞です。通常心臓は一定のリズムで拍動しています。そのため血液はよどみなく流れます。ところが心房細動と呼ばれる不整脈があり、この不整脈は一定のリズムで拍動しません。そのため心臓の中で血液が止まり、よどんだ状態になります。血液は心臓のよどみの中で自然と固まってしまいます。これで固まったものが塞栓といわれます。この塞栓が血液の流れに乗り、脳の血管に飛んでいき細い脳の血管で詰まってしまいます。

 

治療ー発症前の予防ー

心臓の中に血の塊(塞栓)が出来にくくなる治療を行います。抗凝固療法といいます。

そこで最近では、新規経口抗凝固薬(NOAC)と呼ばれるダビガドラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の4種類で心原性脳塞栓症を予防します。

 

アテローム血栓性脳梗塞

心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケースをアテローム血栓性脳梗塞といいます。さてどのような事が太い血管に起きているのでしょうか?国を挙げて生活習慣病の予防を啓蒙しておりますが、癌などとは異なり、怖さの実感は捉えづらいかもしれません。生活習慣病とは高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣に起因した病気の総称のことです。これらの疾患はサイレントキラーとも言われ、ジワジワと全身の血管や全身の臓器を蝕みます。心臓から脳に向かう頚動脈や脳の太い血管を動脈硬化によって狭くしていき、狭くなった血管内腔の壁は不整なため血液中の血小板がこびりつき、さらに硬くなりさらに狭くなっていき最後は閉塞に至るものです。これが進行すると、血栓を形成してつまらせたり、血栓が血管の壁からはがれて流れていって、脳内の深部の血管をつまらせてしまったり、完全に太い血管が閉塞してしまうことによって生じる脳梗塞です。

 

治療ー発症前の予防ー

①狭窄程度が軽度な場合・・・抗血小板薬

狭窄が軽度で、アテロームに大きな潰瘍がない場合にはアスピリンやプラビックスなどの血小板凝集を抑制する薬が使われます。

②狭窄が高度な場合・・・カテーテル、外科的治療

一般的には頚動脈エコーで評価した狭窄率が

「50%以上の症候性狭窄(脳梗塞の既往ある方)」

もしくは

「80%以上の無症候性狭窄(脳梗塞の既往ない方)」

においては, 最良の内科的治療に加えてカテーテルによるステント術または頚部内頸動脈内膜剥離術を行うことも妥当な選択肢とされています。

 

ラクナ梗塞

脳内の細い血管に原因があるケースをラクナ梗塞と呼びます。ラクナとは湖という意味です。ラクナ梗塞は脳の深いところにある直径1mm以下の細い血管がつまるもので、あたかも水たまりのように見えることからこの名前が付きました。CT検査では診断困難でしたが、MRI検査で診断できるようになりました。

 

治療ー発症前の予防ー

日本では、脳梗塞の中で最も多いタイプで、以前は脳梗塞の半数以上がこのタイプでしたが、最近その割合は減少しています。高血圧が最も重要な危険因子であり、他には糖尿病、脂質異常症、喫煙が重要です。再発予防には危険因子の発見・管理が大切です。

 

①降圧治療

高血圧のコントロールが最も重要です。もちろん、その他の生活習慣病もきちっと管理する必要があります。脱水は血液の粘度を高め、血液を固まりやすくすることによって、脳梗塞の引き金になります。したがって、水分不足に注意が必要です。

 

②抗血小板薬

プレタール(シロスタゾール)・バイアスピリン(アスピリン)・プラビックス(クロピドグレル)・パナルジン(チクロピジン)などの抗血小板薬を使用します。

脳出血予防から認知症予防

脳出血は、脳内の血管が破けて出血を起こしてしまっている状態をいいます。脳溢血と呼ばれることもあります。脳卒中とは、脳の血管がトラブルを起こす病気全てを言います。その中で血管が詰まれば脳梗塞、血管が破ければ脳出血、動脈瘤が破裂すればくも膜下出血と言います。脳卒中は、がん、心臓病とともに日本人の3大死因とされてきました。脳卒中の内訳で見ると1960年代初頭の脳卒中死亡の大部分は脳出血でしたが、急激にその割合が減少しています。理由は後に記載しますが脳出血の原因の大部分が高血圧だからです。高血圧治療が脳出血による死亡を優位に減少させることが分かり、国民への啓蒙に降圧剤の開発がすすみ高血圧管理が進歩したためです。それでも依然脳出血は多く、重篤な後遺症や死亡を招く原因疾患です。

なお脳出血について詳しく知りたい方は

https://kuwana-sc.com/brain/718/

https://kuwana-sc.com/brain/718/

https://kuwana-sc.com/brain/721/

https://kuwana-sc.com/brain/724/

https://kuwana-sc.com/brain/726/

それでは脳出血を起こさぬように予防をするには何をすれば良いのか?脳梗塞の予防と同様に第一に脳出血の原因を知らなければ予防は出来ません。まず、脳出血の原因は

 

1 高血圧

最大の原因は高血圧です。長年の高血圧が脳の血管を蝕んでいきます。その結果、脆くなった血管が破れて出血するものと考えられています。脳の血管は表面を太い動脈が走り、脳の内部は細い動脈が枝分かれして走っています。長年の高血圧は、この脳の内部を走る細い血管を蝕み、細動脈硬化,リポヒアリノーシスなどと呼ばれる血管の構造上の変化を起こし、簡単に破れる血管に変えてしまうのです。高血圧の詳しいお話は今後高血圧の章で解説します。

 

2 脳アミロイドアンギオパチー

アミロイドという蛋白質が脳血管にたまって起こる血管障害で、繰り返し脳出血を起こす原因になる疾患です。高齢者に多い病気で認知症の原因にもなります。アミロイドアンギオパチーは、社会の高齢化に伴い注目される疾患ではありますが、治療法はいまだに確立されていません。

 

3 脳動静脈奇形

https://kuwana-sc.com/brain/category/stroke/

脳動静脈奇形は脳の中にできた「血管の塊」のようなもので、脳内の動脈と静脈が毛細血管を介さず直接つながり、塊(ナイダスと呼ばれます)となっている状態の血管の奇形です。胎児期に発生し、20~40歳代の若者の脳出血の原因のひとつです。出血を起こさなければ無症状の事も多いですが、度重なる片頭痛の原因になっている事や閃輝性暗点といい発作的に生じる視野狭窄、てんかんの原因になっていることがあります。ナイダスは正常な血管に比べて壁が薄く、破れやすいです。破れると脳出血、くも膜下出血となります。

 

4その他

くも膜下出血の原因となる動脈瘤は通常、脳の外(くも膜の下)に破裂しますが、脳内に向かって破裂する事もあります。この場合は脳出血となります。また抗血小板薬、抗凝固薬を内服している事が原因になる場合や、肝機能障害、膠原病、妊娠が原因になる場合もあります。

これらの原因のうち高血圧が80%を占めます。よって脳出血の予防の第一は高血圧の治療です。

高血圧は長い年月をかけて、脳内の小動脈に動脈硬化を進め、さらに動脈を脆弱化します。長年、高い血圧に血管は蝕まれ、細動脈硬化、リポヒアリノーシスなどと言われヒアリン変性や内膜肥厚、それらに伴う血管内腔の狭窄、中膜の菲薄化など様々な血管の変性が生じてしまい動脈は高い血圧に耐えられなくなり破綻します。そのため高血圧は放置できない要因です。

 

脳卒中ガイドラインの推奨

1.高血圧症に対して、降圧療法が推奨される(グレードA)。

2.緑黄色野菜や果物を毎日適量摂取することが推奨される(グレードB)。

3.血中γGTP値が異常値に至る過剰な飲酒を控えることが推奨される(グレードB)。

4.低コレステロール血症に対して、背景の肝機能障害の是正や合併高血圧症に対 する降圧療法が推奨される。スタチンによる脂質改善療法は脳出血の発症率を増加させないが、脳出血既往例に対しては慎重投与すべきである(グレードB)。

5.抗血栓療法中は、抗血栓薬の適正用量を使用し、併用療法は適否を熟考し、合併高血圧症を管理することが推奨される(グレードB)。

グレードA推奨されているのは降圧療法(血圧を下げる)だけです。それではどの程度の血圧にするのが理想でしょうか?降圧目標については再発防止における降圧療法の有用性を証明したPROGRESS試験の解析では、「脳出血再発が最も少ない至適血圧レベルは 115/75 mmHg未満」と結論づけています。外来で高血圧の治療を行っていると「先生、血圧が下がりすぎて心配です。今朝なんて110なんですよ」といった話を聞きますが、日本高血圧学会による高血圧ガイドラインにおける正常血圧は家庭血圧において115/75mmHg未満と定義されています。

くも膜下出血予防から認知症予防

くも膜下出血とは

くも膜下出血とは「くも膜の下」に出血を起こした疾患です。頭蓋骨の下には硬膜,くも膜,軟膜の3層の膜が存在し脳を守っています。「くも膜」と「軟膜」の間はくも膜下腔と呼ばれています。このくも膜下腔に出血を起こした状態がくも膜下出血です。世間で大変怖い疾患と認知されているくも膜下出血は脳の血管に出来た脳動脈瘤が破裂する事によって起こるものです。(外傷による外傷性くも膜下出血も存在しますが、この章は脳動脈瘤が破裂することによって生じるくも膜下出血について解説します。)

原因として、脳動脈の一部がコブ状にふくらんでできた動脈瘤の破裂によるものが大部分です。

脳の動脈は末梢になるにつれ、樹木の如く枝分かれをします。この枝分かれをする部分を分岐部といいますが、分岐部は高血圧や血流分布の異常などの影響を受けやすく(他にも遺伝、喫煙、ストレスなどにも)風船のように膨れてきてしまったものが動脈瘤です。この風船状の動脈瘤は破裂しなければ基本的に無症状ですが、破裂するとくも膜下出血を生じます。

一方で脳の血管自体が膨らんでできた本幹動脈瘤があります。こちらは破裂するとくも膜下出血になるものや、脳梗塞になるもの、無症状なもの、大きくなり脳を圧迫するものなど様々です。しかし、「動脈瘤」といえば、血管分岐部の嚢状動脈瘤の方をさす場合が殆どです。

さてこの症では認知症予防の解説ですので、破裂したくも膜下出血の治療の解説は「くも膜下出血」の章を参照して下さい。血管性認知症の原因の一つであるくも膜下出血は、動脈瘤が破裂しないための予防の解説を行います。

無症候性未破裂動脈瘤の破裂率は、2012年に行われた5720人規模の日本人の調査 (UCAS Japan)において、全体平均 0.95%/年という結果が出ています。全体平均の破裂率ですので、サイズの大きいものから小さいものまでの平均値です。破裂させないためには①動脈瘤自体を手術や血管内治療によって消失させる②内科的管理で破裂させないようにコントロールを行う2通りの方法が選択されます。

日本脳ドック学会のガイドライン(2014年)日本脳卒中ガイドライン(2015年)では、未破裂脳動脈瘤の自然歴(破裂リスク)から考察すれば、原則として患者の余命 が10~15年以上ある場合に、下記の病変について治療を検討することが推奨される。

A 5~7mm以上のサイズの動脈瘤

B サイズが上記より小さくても

(B-1) 物が二重に見える、など症状の原因となっている瘤

(B-2) 前交通動脈と内頸動脈・後交通動脈分岐部の瘤

(B-3) Dome neck aspect比が大きい・不整形・ブレブを有するなどの形態的特徴をもつ

サイズの小さい動脈瘤は一般的に破裂率は低いため内科的管理が中心となります。降圧治療、禁煙、過度の飲酒を避け、半年に一度MRAで動脈瘤のサイズ、形状を確認することが日本脳卒中ガイドライン(2015年)で推奨されています。基本的には未破裂動脈瘤について管理が行える脳神経外科医に血圧を管理して頂くのを推奨します。

詳しく知りたい方は

https://kuwana-sc.com/brain/849/

https://kuwana-sc.com/brain/853/

アルツハイマー型認知症は予防可能か?

さて認知症全体の数が700万人として、認知症の代名詞とも言えるアルツハイマー型認知症は認知症全体の約60%程の割合を占めています。つまり420万人程となります。このアルツハイマー型認知症を予防することは出来ないのでしょうか?アルツハイマー型認知症とは脳に2つの①アミロイドβ(Aβ)②タウタンパク(タウ)と言う物質が沈着し脳細胞が損傷したり、神経伝達物質が減少したりして、脳の全体が萎縮する結果、認知機能低下など様々な症状を引き起こす疾患です。このように解説すると予防することは絶望的な印象を受けます。しかしながら①アルツハイマー型認知症の修復因子・増悪因子として脳血管障害の存在②中年期の高血圧、糖尿病、喫煙、アルブミン尿などの血管性危険因子が脳血管障害とアルツハイマー型認知症の危険因子であることが多くの疫学研究から判明している③脳血管病変に起因する低灌流やアミロイドβのクリアランス障害がアルツハイマー型認知症に直接関与していることが判明しています。また脳卒中の危険因子である心房細動も認知症の危険因子であることも判明してきています。