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9-7
アルツハイマー型認知症ー治療(周辺症状)ー

BPSDの治療

認知症診療ガイドライン2017の総論では「認知症の治療の際には薬物療法・非薬物 療法・ケアをどのように施行するか」といったBPSD の治療方針に関するフローチャートが 示されています。以下にフローチャートを記します。基本的には周辺症状に対して、非薬物療法を優先します。しかしながら周辺症状に対して、非薬物療法を優先する選択は理想的ですが危険が迫った状態や、介護に疲れきり疲弊しているご家族がいるのも事実です。そのため、例外的条件として大うつ病、他者に危害を加える恐れの高い妄想、自傷・他害の原因となる攻撃性の3要件が挙げられています。実際に私も非薬物療法を優先するべきことは知ってはおりましたが、環境を整える事は努力したものの苦労対効果では、正直苦労100、効果0の日々が続き医師に薬物治療を懇願しました。状況に応じて対応を考慮するべきでしょう。

 

非薬物療法

認知症初期は、認知機能障害が軽度で病識が保たれている場合もあります。そのような不安定な時期には、どうにもならない不安や自責の念から抑うつ的な気分になったり、指摘、叱責、注意などに向かう易怒性が生じます。また趣味や仕事に意欲を失うアパシーという症状も高率にみられます。認知症の簡易試験や簡単な質問に答えられないときにみられる「取り繕い」は、もの忘れを悟られたくない反応の1つです。とどのつまり根本は自身の先行きへの不安の現れなのです。不安を募らせている患者さんに「環境を整えること」は大切です。環境を整えるとは「いつでも、どこでも、その人らしく」暮らせるように支援し、本人の言動を本人の立場で考えて見た上で環境を整えます。老いていく肉親、配偶者を病気として受け入れることが出来ず、説得に乗り出したり、意見がぶつかる事が出てきます。私自身もそうでした。しかしたとえ、間違った内容、不適切な行動であったとしても患者の発言・言動は、いったん受け入れたうえで、自尊心を尊重して対応をすることが重要です。患者が心地よい程度に流す作業も必要です。自尊心を尊重するケアは、脳の適応能力により認知症もある程度回復が見込まれると言われています。

・どうしてご本人がそのような行動をしたのか考える

・一人の人間として尊厳を持って対等に接します

・いったん全てを受け入れた上で接しましょう

・自身で出来ることは任せて役割を奪わないようにしましょう

抗精神病薬

BPSDの中で抗精神病薬のターゲットとなる症状は①幻覚・妄想②攻撃性・暴力③敵意・抵抗が挙げられます。使用する薬剤は副作用の一つである錐体外路症状の少なさから非定型抗精神病薬が使用される事が多いです。ただし幻視を中心としたレビー小体型認知症に対しては、ドネペジルが有効な場合が多いです。ドネペジルに反応しない幻覚に対しては、抑肝散が効果的であることがあります。ドネペジルや抑肝散で効果不十分な妄想に対しては、少量の非定型抗精神病薬が使用されます。まず抗精神病薬は①定型抗精神病薬(セレネース・グラマリール・コントミンなど)と②非定型抗精神病薬(リスパダール・セロクエル・ジプレキサなど)に大別されます。定型抗精神病薬に比べ、非定型抗精神病薬は副作用の錐体外路症状が少なく、意欲減退や自閉などの症状改善効果もあり、主流は非定型抗精神病薬を使用します。ただし、どの薬剤の基本原則ですが高齢者に非定型抗精神病薬を使用する場合は際には少量から慎重に開始すべきです。リスペリドン(リスパダール)・オランザピン(ジプレキサ)・クエチアピン(セロクエル)・アリピラゾール(エビリファイ)を使用します。

 

・リスペリドン

 0.5 mg/日前後で開始し、1mg/日を超えると副作用が発現しやいため注意が必要です。鎮静作用や服用後のふらつきを認めるため夕食後あるいは就寝前投与が望ましいです。数日後の再診指示を出し必ず副作用の確認を行う事が望ましいです。

 

・オランザピン

1.25 ~ 2.5 mg/日で開始し、 5 mgを超えると副作用が発現しやいため注意が必要です。 また糖尿病患者には禁忌です。

 

・クエチアピン

非定型抗精神病薬の中で唯一錐体外路症状が比較的現れにくく、レビー小体型認知症に対して用いられることがあります。開始量は12.5mg/日、維持量は75~100mgを超えないように使用します。ただしレビー小体型認知症では抗精神病薬に対する過敏性を認め、副作用が発現します。よってレビー小体型認知症には注意が必要です。糖尿病患者には禁忌です。

 

 

幻覚・妄想)

リスペリドン・オランザピン・アリピラゾールの使用が推奨されています。

 

不安)

リスペリドン・オランザピンの使用が推奨されています。

 

焦燥性興奮)

リスペリドン・アリピラゾールの使用が推奨されています。チアプリドも興奮や攻撃性についての有効性は認められ、脳梗塞後遺症による興奮・徘徊・せん妄に保険適応があるため使用を検討して良いと記載されています。

 

暴力・不穏)

非定型抗精神病薬の使用を考慮しても良いと言われています。

 

性的逸脱行動)

非定型抗精神病薬の使用を考慮しても良いが、エビデンスはありません。しかし実際に臨床の場で使用すると効果は良い印象を受けます。

 

FDAの報告では高齢者認知症患者への抗精神病薬投与によって誤嚥性肺炎や骨折のリスクが上昇し死亡率が1.6倍高くなるとあります。そのため周辺症状に対する治療の第一選択薬は非薬物療法となります.次に抗認知症薬の効果の確認が必要です。それでも改善がみられなければ抗精神病薬を少量から使用しますが、非定型抗精神病薬の使用が推奨されます。しかしながらリスクとベネフィットを考慮して使用すべきです。焦燥性興奮・幻覚・妄想・不安には効果がみられる一方で、徘徊、異食、不潔行為などにはあまり効果的ではありません。使用時には転倒や骨折リスクも上昇することを説明し、眠気・ふらつき・歩行障害・嚥下障害・構音障害・などに中止し少量から開始。副作用出現したら中止を検討することを勧めます。

 

 

抗痙攣薬

抗てんかん薬もBPSDに対し使用されるケースがあります。カルバマゼピンやバルプロ酸が有効な報告がありますが、副作用の面から、臨床場面ではバルプロ酸(デパケンR,セレニカR)が用いられることが多いです。少量の使用でせん妄、不眠、易怒性、暴言・暴力に対する効果認めます。これらの症状には非定型抗精神病薬を使用することが多いですが、臨床の現場では非定型抗精神病薬を使用しにくいと考える先生も多いと思います。そんな時、カルバマゼピンやバルプロ酸を使用することが勧められます。

 

・バルプロ酸

バルプロ酸は介護者の負担が大きい焦燥・興奮・攻撃性に有効性を期待できます。重篤な副作用も少なく使用しやすいお薬です。1日100mg-600mgの範囲が有効です。錠剤、徐放剤、細粒、シロップと形状も豊かで嚥下障害を伴う方に使用しやすいお薬です。1日100mgから開始し経過をみながら増量します。副作用は食欲不振、肝機能障害、高アンモニア血症、血小板減少症、催奇形性などがあるため定期的に血液検査と血中濃度の測定が必要となります。

 

・カルバマゼピン

カルバマゼピンには100mgと200mgの錠剤と細粒があります。副作用には薬疹や血小板減少があるため注意が必要です。ふらつきの副作用もあるため就寝前投与が望ましく少量開始が基本です。また難聴の副作用もしばしばみられます。

うつとアパシー

アルツハイマー病の3割、レビー小体型認知症の5割にうつ状態を認めると言われています。一方で、うつ状態に似たアパシーと呼ばれる症状があり、アパシーは高頻度に認められます。まずアルツハイマー型認知症の「うつ」の特徴ですが、意欲減退、興味喪失、不安の症状が強く,希死念慮はさほど強くありません。一方、レビー小体型認知症の「うつ」の特徴は希死念慮が強く現れます。一方、アパシーは、意欲減退・興味喪失・自発性低下を認めますが、深刻味がなく、「うつ」で認められるような不安、自責感、自殺念慮がありません。一見、うつに感じるのですが、深刻感がない意欲減退です。認知症では「うつ」も出現しますが、アパシーの頻度は更に高いです。アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジルはアルツハイマー型認知症に対するうつの改善効果が報告されていますが、重度のうつ状態に対しては、抗うつ薬が必要となります。

アルツハイマー型認知症に合併した「うつ」にはSSRI( 選択的セロトニン再取り込阻害薬 ) や SNRI( セロトニン‐ノルアドレナリン再取り込阻害薬 ) が第1 選択になりますが、有効性は一定しておりません。三環系抗うつ薬は抗コリン作用が強いため、使用は控えるべきです。これら抗うつ剤は、急な中断によりantidepressant discontinuation syndromeといい、抗うつ薬の断薬、減量によって不眠、吐き気、ふらつき、感覚障害、だるさが出現する症状が出現する事があるので注意が必要です。パロキセチン、デュロキセチン、エスシタロプラム、セルトラリンなど半減期の短いSSRIは特に注意が必要です。パキシルは、抗うつ剤の中でも特に、減量時に不調が生じてしまうことが多いお薬です。うつにはSSRI( 選択的セロトニン再取り込阻害薬 )が第一選択薬となるお薬ですので、少しパキシルの説明を行います。パキシルの適応は、①うつ病②パニック障害③強迫性障害④社会不安障害⑤外傷後ストレス障害に使用されます。効果の切れ味が良く、様々な不安症状に効果があり、非常にバランスの良いお薬です。デメリットは胃腸障害(悪心・嘔吐・便秘など)、頭痛、体重増加、性機能障害、先述したantidepressant discontinuation syndromeや賦活症候群があります。antidepressant discontinuation syndromは先述しました。賦活症候群とは、お薬を飲み始めた初期に中枢神経系を刺激してしまうことで、気分が高揚して躁転してしまったり、不安や焦りが高まって衝動的に自殺をしてしまうことがあります。また、セロトニン症候群とは抗うつ薬を服用中に出現する副作用で、精神症状(不安、焦燥、興奮)、錐体外路症状(振戦、筋固縮)、自律神経症状(発熱、下痢、頻脈)が見られることがあります。これらは服薬開始早期に出現します。服薬を中止すれば、症状は軽快しますが、横紋筋融解症や腎不全などの重篤な結果に陥ることもありますから注意が必要です。また抗うつ薬とパーキンソン病治療剤(選択的MAO-B阻害剤)もセレギリンの併用はセロトニン症候群を起こす可能性があるため禁忌です。

アパシーに対しては抗うつ剤は無効な場合が多いです。特にSSRIはアパシーの悪化の可能性もあります。アパシーに対しては塩酸ドネペジル、塩酸アマンタジン(シンメトレルR)、ペルゴリド(ビ・シフロールR )の有効性が報告されています。ただしDLBでは、これらドパミン作動薬で幻覚・妄想症状が悪化することもあるため注意が必要です。

 

パキシル

5mg,10mgと20mgの錠剤があります。高齢者には10mgから開始し1週ごとに10mgずつ漸増していく方法が安全です。場合によっては5mgから開始してもよいでしょう。夕食後もしくは就寝前投与とします。副作用は眠気、悪心、嘔吐ですが用量依存性に増加しません。2週間ほど経過しないと効果がみられないので説明しておく必要があります。十分漸増したら維持量を6-8週間投与して10mgずつ漸減します。

 

セルトラリン

セルトラリンは25mg錠を夕食後もしくは就寝前から開始して、1週間毎に25mgずつ漸減していく方法が一般的です。50mg-75mg程度が至適濃度となるようです。服用初期に下痢などがみられることがありますが、一時的なものです。

 

ミルタザピン

15mg錠を就寝前投与から開始します。1-2週ごとに15mgずつ漸増します。副作用は傾眠、口渇、倦怠感などがあります。催眠効果があるので就寝前投与にしてベンゾジアゼピン系睡眠薬を止めることも可能です。

 

抗不安薬

認知症患者の不穏、不安、焦燥にエチゾラム(デパス)、クロチアゼパム(リーゼ)などを処方している医師を多数見かけますが、75歳以上の高齢者、中等度以上の認知症患者に対するベンゾジアゼピン系抗不安薬は副作用の問題から推奨されておりません。またアルツハイマー型認知症はじめ認知症患者に対する抗不安薬の使用は適応外使用です。さらに認知症患者の不安には効果は期待できず、夜間せん妄、暴力、妄想などには効果は全くありません。

漢方薬

抑肝散は幻覚、興奮、易刺激性などに効果が認められると言われていますが、科学的な根拠は実はありません。しかしながら実際の現場では使用される機会は多いです。抑肝散の効果は投与後1 ~ 2 週間で現れ、速効性はありません。抑肝散の副作用は、消化器症状と低カリウム血症です。認知症高齢者に対しては5 gからの開始が推奨されています。

釣藤散は血管性認知症のBPSD(睡眠障害、せん妄、幻覚、妄想) に対する効果が認められています。黄連解毒湯も血管性認知症や脳梗塞後の興奮,うつ,不安に対する効果が報告されています。