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アルツハイマー型認知症ー原因ー
はじめに
最新の発表によると2020年9月現在、全人口の28.7%が65歳以上の高齢者です。高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人(高齢者人口の15%)でしたが、2025年には高齢者人口の20%が認知症になるという推計もあります。認知性疾患の主たる疾患はアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症で、両者で約8割を占めます。ここでは認知症の代表的疾患であるアルツハイマー型認知症について解説します。
原因
簡単に説明しますと、アルツハイマー型認知症は、脳に2つの物質が沈着します。正常な状態でもある程度沈着しているのですが、一定量沈着すると脳細胞が損傷したり、神経伝達物質が減少したりして、脳の全体が萎縮する結果、認知機能低下など様々な症状を引き起こします。その2つの物質を①アミロイドβ(Aβ)②タウタンパク(タウ)と言います。
以下少々詳しく解説していきます。難しいのでとばして読んでも構いません。
今から100年ほど前、アルツハイマー博士は記憶障害のあった女性の死後、脳組織を調べました。すると脳の萎縮、脳内のシミ(老人斑)、脳神経の中に糸くず(神経原線維変化)を発見しました。アルツハイマー型認知症は大脳皮質における神経細胞の著しい脱落に加え、この①老人斑と②神経原線維変化の沈着を特徴とする認知症疾患です。①老人斑は神経細胞毒性の強いAβタンパク(主にAβ42)が神経細胞外に沈着したものであり、②神経原線維変化はリン酸化されたtauタンパクが神経細胞内に蓄積したものです。
①老人斑
老人斑とは神経細胞毒性の強いAβタンパク(主にAβ42)が神経細胞外に沈着したものです。
Aβは、アルツハイマー型認知症に見られる老人斑の大部分を構成している物質ですが、健康な人の脳にも存在します。Aβタンパクは脳内で作られた、たんぱく質が分解されたもので、40個前後のアミノ酸からできています。分解される時の微妙な切れ目の差で、無害で排出されやすいものと、有害で脳内に留まり老人斑になるものが存在します。排出されず神経細胞外に沈着すればアルツハイマー型認知症に、血管の壁に沈着するとアミロイドアンギオパチーといい、脳出血の原因となることもあります。この無害で排出される物質と有害で蓄積される物質の形成について、少し詳しく解説します。(少し難しい内容ですし、私もあまり理解していません)もともとは膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein; APP)が存在します。APPを切断する活性酵素にα-、β-、γ-セクレターゼ複合体などの酵素活性が存在します。これら酵素活性がAPPを切断するには 2 つの異なる経路があります。
A 非アミロイド形成経路
APPはまず、αセクレターゼによって切断されて細胞内のC83と細胞外のsAPPαという二つの断片に別れます。αセクレターゼ活性を有する酵素は ADAM9、ADAM10、ADAM17の3 種類が同定されています。αセクレターゼによるAPPの切断部位はAβドメイン中にあり、Aβペプチドは産生されません。その後C83は、γセクレターゼにより切断され、P3ペプチドとCTFと呼ばれる二つの物質になります。P3は有害な物質ではないようです。
B アミロイド形成経路
APPはまずβセクレターゼ(BACE1)によって切断され細胞内のC99と細胞外のsAPPβという二つの断片に分かれます。C99のN末端が、Aβの第一アミノ酸に相当します。 次にC99がγセクレターゼにより、Aβとなります。おおよそ90%のAβの長さは 40 残基でAβ40と呼ばれますが残りは42 残基のAβ42も存在します。Aβ42は、Aβ40よりも凝集が起こりやすく、神経毒性が強いと言われます。血漿中のAβ42濃度の上昇とアルツハイマー病の発症との関連が指摘されています。一方で脳脊髄液内のAβ42濃度は減少し、タウ濃度およびリン酸化タウ濃度は上昇します。
難しい話ですが、これらを簡単にまとめるとAPPはβセクレターゼとγセクレターゼによって分断されAβ42となります。神経毒性の強いAβ42が神経細胞外に大量に沈着し老人斑となりアルツハィマー型認知症の原因になります。αセクレターゼは関与しません。一方で脳脊髄液中ではAβ42が減少するのがアルツハイマー型認知症の診断バイオマーカーということです。アルツハイマー型認知症の治療薬としてはAβ42を除去したいですので、抗Aβ42抗体剤やAβ42に対するワクチンを開発すればAβ42排出促進可能となりアルツハイマー型認知症の治療の幅は広がります。
②神経原線維変化
軸索の骨格を形成しているのは微小管という物質です。微小管同士の結合は軸索の安定化に大きな影響をもたらしており、その結合の安定性に担っているのがタウ蛋白質です。タウは選択的スプライシングによって6つのアイソフォームが存在し、微小管結合部位のリピート数によって3リピートタウと4リピートタウに分類されます。タウは、リン酸化を受けることによって微小管への親和性が低下し、微小管を安定させている力を失ってしまい微小管はバラバラに分解されます。その結果、正常の細胞骨格には見られない異常な繊維の束を形成し、神経細胞内に蓄積します。これが神経原繊維変化という糸くずです。タウオパチーは、このようなタウ蛋白の蓄積が認められ、他の蛋白の蓄積がない疾患を指します。このタウオパチーに入るのが、FTLDに分類されるピック病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性認知症となります。
FTLDとタウオパチー
FTLDは最近まではピック病と呼ばれていました。しかし現在では、ピック病の名称はFTLDの中でピック小体と言われるタウ蛋白の蓄積物が脳内に認められる疾患に限って使用されております。現在FTLDの分類は臨床学的に分類される①前頭側頭型認知症②進行性非流暢性失語症③意味性認知症の3つの分類か、蓄積する蛋白によって分類されています。FTLDの中の各々の疾患と臨床病型は必ずしも一対一に対応していません。臨床の分類ではどの疾患なのか診断するのは困難です。ちなみに表の如くアルツハイマー病は6つのタウアイソフォーム・ピック病は3Rタウ・PSP,CBDは4Rタウが蓄積します。