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降圧ー薬物療法 利尿薬ー
利尿薬の使用
食塩感受性の問題)
食塩感受性は食塩非感受性高血圧と比較し、予後が不良です。病態的には腎臓のナトリウム排泄機能障害の関与が大きく、ナトリウムの体内貯留が問題となります。ナトリウムが体内に貯留すると循環血漿量が増加、心臓からの拍出量が増加し血圧が上昇します。食塩感受性の診断がつけば減塩指導と食塩感受性高血圧に適合した降圧剤を使用します。それではまず食塩感受性の診断はどうするのでしょうか?
食塩感受性の診断)
尿中のナトリウム排泄量を評価するのが有用ですが、24時間蓄尿は大変です。日本高血圧学会減塩ワーキンググループの報告では早朝第二尿のナトリウム/クレアチニン比の経時的測定が代用できます。またレニン低値は食塩感受性を示唆するため参考にしても良いでしょう。
食塩感受性高血圧の治療)
現況では利尿薬を用いる事となります。利尿薬はサイアザイド系利尿薬・ループ利尿薬・K保持性利尿薬に分類されます。
①サイアザイド系利利尿薬
サイアザイド系利尿薬は、降圧、臓器保護、心血管イベントの抑制効果に豊富なエビデンスが集積された薬剤です。薬物動態は遠位尿細管においてNaCl再吸収を抑制し降圧、長期使用において体内ナトリウムが欠乏し、糸球体濾過量が減少し、近位尿細管での水・電解質再吸収が促進され循環血漿量が戻ります。一方で、低K血症、脂質糖代謝系の副作用もあります。低Kが進行するほど糖代謝異常の副作用が増すため、低用量サイアザイド系利尿薬をARBに追加する使用法が取られます。また積極的適応のない高血圧の第一選択薬でもあります。
②ループ利尿薬
ループ利尿薬は、近位尿細管NaClの再吸収を抑制します。サイアザイド系利尿薬とは異なり、糸球体濾過量の減少降下がないため、循環血漿量減少効果はありません。低カリウム血症、脂質糖代謝系の副作用のほかに難聴の副作用もあります。
③K保持性利尿薬
アルドステロンは腎臓における尿細管で水分やナトリウムを血管の中にへ再び吸収させ、血管に流れる血液量を増加させることで血圧を上げる作用があります。またアルドステロンは心臓や血管、脳などにも作用し、心筋の線維化や心臓を肥大化する作用、血管の炎症反応などを亢進させる作用や腎臓障害に関わる作用をち、血圧を上げると言われていますMR拮抗薬はアルドステロンが作用する鉱質コルチコイド受容体に拮抗的に作用することで、アルデステロンの作用を抑え尿細管などにおけるアルドステロンの働きを防止して血圧を下げるお薬です。
これまでMR拮抗薬はスピロノラクトンとエプレレノンが使用可能でしたが、それぞれ問題を持っていました。
スピロノラクトン:MRとの親和性が強いが、女性化乳房、乳房痛、EDなどの性ホルモン系の副作用が強いです。
エプレレノン:性関連副作用はないですが、MRとの親和性に劣ります。さらにエプレレノンは糖尿病性腎症の方には使用禁忌であり、カリウム製剤との併用も行えません。
これらの問題から若年ー中年男性では、可能な限りエプレレノンを使用し、糖尿病性腎症を持つ方ではスピロノラクトンを使用するのが現実的です。MR拮抗薬のみでは降圧が不十分なことも多く、その場合はカルシウム拮抗薬を併用します。特にジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(アムロジン・ニフェジピンなど)自体にMR拮抗作用があるため有効と言えます。これらの問題から2019年1月に新規MR拮抗薬として、エサキセレノン(商品名ミネブロ)が高血圧症を適応として承認されました。これまでの非臨床研究から、エサキセレノンは既存のMR 拮抗薬に比べて強力かつ選択的なMR拮抗作用を有し、1日1回の投与によって優れた降圧作用と腎保護作用を示しています。また中等度腎機能障害、アルブミン尿を有する2型糖尿病を合併した高血圧症患者を対象とした臨床試験に加えて、III度 高血圧症患者や、原発性アルドステロン症を合併した高血圧症患者を対象とした臨床試験においても、良好な降圧効果及び安全性が確認されており使いやすくなったお薬ではないでしょうか。
K保持性利尿薬の使用が適した高血圧はBNPが300以上の心不全合併例やK,4.5mEq/L以下、eGFR<60のCKD合併例などになります。その他①原発性アルドステロン症②アルドステロンブレイクスルーの際に積極的に使用します。
①原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症の診断基準は前述しましたが、診断がついた上で片側副腎摘出術が行えない方、手術希望がない症例ではMR拮抗薬の投与となります。
②アルドステロンブレイクスルー
特に、ACE阻害薬では、投与により血中AII濃度は抑制できていても、血中アルドステロン濃度が減少しないというエスケープ現象があり、アルドステロンブレイクスルーと呼ばれます。この際にMR拮抗薬を併用して、この問題が回避できる可能性があります。