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降圧ー非薬物療法ー
まずは薬を内服する前に自身で血圧を下げる方法、または内服しておいてもお薬を減量もしくは中止するために自身で血圧を下げる方法から解説します。高血圧外来で「一生お薬を飲み続けないといけないのですか?」と尋ねられます。答えは一律ではありませんが、ご自身の努力と努力の維持が可能ならばお薬を止めることは可能です。ご自身が生活習慣を改めると血圧は下がります。食事、運動だけで血圧が下がり降圧剤を不要とするケースや減量するケースは少なくありません。もちろん、努力を維持しなければ再発します。以下には薬以外で推奨される降圧の手助けを解説します。
食事
食塩過剰摂取が血圧上昇と関連があることは証明されており、更に減塩の降圧効果も証明されています。まずは血圧を上げる要因のナトリウム=食塩量を見直すことが重要です。つまり減塩食です。目安として一日の食塩摂取量を6g未満に抑えます。6g/日未満という厳しい減塩目標に対して、本邦における平均食塩摂取量は依然10g/日を超えていて、より食塩摂取量が少ない欧米に比べてその達成には努力が必要です。
他にも野菜を積極的に食べると良いでしょう。欧米で野菜、果物、低脂肪乳製品などを中心とした食事摂取の臨床試験が行われ、有意な降圧効果が証明されました。ただし、腎機能障害を伴う方は高カリウム血症をきたす危険があるので、野菜、果物の過剰な摂取は推奨されておりません。また、糖尿病の方は果糖摂取の問題から果物の摂取は推奨されていません。青魚(イワシ、サンマ、鯵など)は、動脈硬化を防いでくれるEPAやDHAが豊富に含まれ、二次的に降圧にも働きます。
運動
運動による降圧効果は証明されています。血圧降下作用以外にも体重や体脂肪、特に内臓脂肪、コレステロール、インスリン感受性など生活習慣病全般の改善効果が証明されており、心血管死亡率の減少や認知症発症リスク軽減効果も示されております。米国スポーツ医学協会の勧告では、ハードな運動を中等度の運動に交えて行うことが推奨されています。しかし一方では、高血圧患者において高負荷運動は運動中の過度の血圧上昇をきたす可能性が指摘されており、結果的に予後が悪くなるという報告もあり、推奨されていません。以上より軽度から中程度負荷の運動に予防効果が認められており、やや脈が速くなる(笑って行える程度の)程度の有酸素運動が優れています。具体的にはウォーキング、ジョギング、サイクリング、スイミングなどが挙げられます。週に3回以上、1回あたり30分以上の運動が勧められていますが、体力にあわせて無理のない範囲で開始しましょう。持続すれば体は慣れてきますので、回数や負荷は上がっていきます。そして何より血圧や体重が目に分かる結果(毎日の血圧が下がる・体重が減る)が伴います。これに軽度のレジスタンス運動、およびストレッチ運動を補助的に組み合わせる事が理想的です。なお、高度の高血圧の方や心血管系疾患を患っている方は事前のメディカルチェックが必要です。
肥満予防
肥満は高血圧の重要な危険因子です。特に内臓肥満は高血圧のみならず糖尿病、脂質代謝異常などの他の生活習慣病のリスクファクターのため積極的にダイエットが推奨されます。4-5kgの減量で有意な降圧をきたします。肥満の有無は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出する「体格指数 (BMI)」で判断します。BMIの正常範囲は18.5~25.0(kg/m2)で、肥満者はBMI25.0未満を目指して減量をします。食事制限および運動を組み合わせると良いでしょう。
節酒
長期にわたる多量飲酒は高血圧の原因となります。その他、くも膜下出血や脳梗塞など脳卒中をひき起こすだけでなく、肝癌や膵臓癌の原因にもなり死亡率を高めます。一方で,少量の飲酒は死亡率を改善するとされています。エタノール換算で男性20-30mL(日本酒1合、ビール中ビン1本、焼酎半合弱、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯弱に相当)/日以下、女性はその半量程度に制限すべきと言われています。
禁煙
喫煙は一過性の血圧上昇をひき起こします。しかし、喫煙者は非喫煙者に比べ肥満度が低く、血圧値も低いと言われています。したがって、喫煙の高血圧発症への影響も指摘されているものの、喫煙の血圧への慢性的な影響の評価は確立されていません。数多くの癌の原因、肺気腫等呼吸器疾患の影響、虚血性心疾患、脳卒中の発症リスクのため禁煙は推奨されます。意外な事実ですが血圧との関係は現時点では証明されておりません。