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脳疾患を知る

10-6
脳血管性認知症ー予防と治療ー

予防

脳卒中を予防することが最重要課題となります。

脳卒中とは、脳血管が引き起こす病気を全て含む言葉です。

・血管が詰まれば脳梗塞、血管が破ければ脳出血、動脈瘤が破裂すればくも膜下出血と言います。脳の血管が狭窄(狭くなる)、閉塞(つまる)と脳細胞に血液が充分に行き渡らなくなり脳細胞は死んでしまいます。これが脳梗塞です。

基本的にはMRI検査、頚動脈エコー、心電図、心臓エコー、血液検査を行い脳梗塞の原因を把握しなければ治療法は見つかりません。各々の治療法は全く異なります。

詳細を知りたい方は

https://kuwana-sc.com/brain/502/

https://kuwana-sc.com/brain/513/

https://kuwana-sc.com/brain/523/を参照下さい。

さて脳梗塞予防方法の前に脳梗塞が起きる機序によって予防の方法が異なるため、脳梗塞の機序について解説します。脳に血液が行き渡らなくなる訳ですので、どこで血流が途絶える原因があるのかによって考えます。脳に血液を送る順序は、『心臓ー血管ー脳血管』と考えると分かり易いです。つまり心臓に原因があるケース、心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケース、脳内の細い血管に原因があるケースの3通りがあります。(厳密には流れる血液に原因がある血液上の疾患も大切ですが、ここでは割愛させて頂きます)

 

心臓に原因があるケース 

心原性脳塞栓症

心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケース

アテローム血栓性脳梗塞

脳内の細い血管に原因があるケース

ラクナ梗塞

 

と呼びます。

 

心原性脳塞栓症

「心臓」に原因がある脳梗塞です。通常心臓は一定のリズムで拍動しています。そのため血液はよどみなく流れます。ところが心房細動と呼ばれる不整脈があり、この不整脈は一定のリズムで拍動しません。そのため心臓の中で血液が止まり、よどんだ状態になります。血液は心臓のよどみの中で自然と固まってしまいます。これで固まったものが塞栓といわれます。この塞栓が血液の流れに乗り、脳の血管に飛んでいき細い脳の血管で詰まってしまいます。

 

ー発症前の予防ー

 

心臓の中に血の塊(塞栓)が出来にくくなる治療を行います。抗凝固療法といいます。

ワルファリンというお薬を使用するのがこれまでの標準的な治療でした。しかしワルファリンには問題点が非常に多く安全に使用するのが大変なお薬でした。(詳しくはhttps://kuwana-sc.com/brain/502/)

そこで最近では、新規経口抗凝固薬(NOAC)と呼ばれるダビガドラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の4種類で心原性脳塞栓症を予防します。

 

アテローム血栓性脳梗塞

心臓と脳を結ぶ太い血管に原因があるケースをアテローム血栓性脳梗塞といいます。さてどのような事が太い血管に起きているのでしょうか?国を挙げて生活習慣病の予防を啓蒙しておりますが、癌などとは異なり、怖さの実感は捉えづらいかもしれません。生活習慣病とは高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣に起因した病気の総称のことです。これらの疾患はサイレントキラーとも言われ、ジワジワと全身の血管や全身の臓器を蝕みます。心臓から脳に向かう頚動脈や脳の太い血管を動脈硬化によって狭くしていき、狭くなった血管内腔の壁は不整なため血液中の血小板がこびりつき、さらに硬くなりさらに狭くなっていき最後は閉塞に至るものです。これが進行すると、血栓を形成してつまらせたり、血栓が血管の壁からはがれて流れていって、脳内の深部の血管をつまらせてしまったり、完全に太い血管が閉塞してしまうことによって生じる脳梗塞です。

 

ー発症前の予防ー

①狭窄程度が軽度な場合・・・抗血小板薬

狭窄が軽度で、アテロームに大きな潰瘍がない場合にはアスピリンやプラビックスなどの血小板凝集を抑制する薬が使われます。

②狭窄が高度な場合・・・カテーテルによる治療、外科的治療

一般的には頚動脈エコーで評価した狭窄率が

 

「50%以上の症候性狭窄(脳梗塞の既往ある方)」

「70%以上の無症候性狭窄(脳梗塞の既往ない方)」

 

においては, 最良の内科的治療に加えてカテーテルによるステント術または頚部内頸動脈内膜剥離術を行うことも妥当な選択肢とされています。

ラクナ梗塞

脳内の細い血管に原因があるケースをラクナ梗塞と呼びます。ラクナとは湖という意味です。ラクナ梗塞は脳の深いところにある直径1mm以下の細い血管がつまるもので、あたかも水たまりのように見えることからこの名前が付きました。CT検査では診断困難でしたが、MRI検査で診断できるようになりました。

 

ー発症前の予防ー

日本では、脳梗塞の中で最も多いタイプで、以前は脳梗塞の半数以上がこのタイプでしたが、最近その割合は減少しています。高血圧が最も重要な危険因子であり、他には糖尿病、脂質異常症、喫煙が重要です。再発予防には危険因子の発見・管理が大切です。

 

①降圧治療

高血圧のコントロールが最も重要です。もちろん、その他の生活習慣病もきちっと管理する必要があります。脱水は血液の粘度を高め、血液を固まりやすくすることによって、脳梗塞の引き金になります。したがって、水分不足に注意が必要です。

 

②抗血小板薬

プレタール(シロスタゾール)・バイアスピリン(アスピリン)・プラビックス(クロピドグレル)・パナルジン(チクロピジン)などの抗血小板薬を使用します。

 

上記予防の前提は、生活習慣病が管理されていることです。動脈硬化危険因子の中では高血圧管理が最も重要であり、脳小血管病変進展予防には少なくとも140/90mmHg未満、ラクナ梗塞、脳出血、抗血栓薬内服中では130/80mmHg未満に管理する事が望ましいです。糖尿病は脳卒中だけではなく認知症の危険因子です。糖尿病合併例では血糖管理を積極的に行います。しかし低血糖発作を起こすとかえって認知症に悪影響 を来します。脂質異常症に対するスタチンの投与も再発予防に有用です。動脈硬化性疾患診療ガイドラインでは脳梗塞既往患者はLDLコレステロールは 120mg/dl未満に管理することが推奨されています。また冠動脈疾患の既往があればLDLコレステロールは100mg/dl未満、冠動脈疾患の既往がなくても高齢、喫煙、高血圧/糖尿病の合併、家族に心疾患既往有無、HDL-コレステロール低値などのリスクファクターのある方は120mg/dl未満もしくは140mg/dl未満に管理することが推奨されています。

また定期的な運動、リハビリテーションが推奨家庭内および介護サービスを利用して現在の日常生活を可能な限り維持することが重要です。意欲低下、うつなどの症状が合併しないように介護保険サービスを利用し社会生活、人間関係を保つようにしておくことは認知症予防に有用と考えられています。

発症後の治療

血管性認知症の認知機能低下に有効性が認められている薬剤はドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンとなります。しかしながら科学的根拠は不十分と言われております。
リバスチグミンは脳血管性認知症の行動異常を抑制し、併用する抗精神病薬や抗不安薬の用量を減少させます。メマンチンは脳血管性認知症の認知機能悪化の抑制効果と気分、行動異常に効果が認められています。

また精神症状、意欲、自発性の低下に対する薬剤は

①リスペリドンなどの非定型抗精神病薬・・・低用量の使用で攻撃性、焦燥性興奮、精神症状を緩和します。

②ニセルゴリン(サアミオン)・・・代表的な脳循環代謝改善薬です。脳の血流をよくしたり、エネルギー代謝を改善する作用があります。脳梗塞後遺症に伴う意欲低下 認知機能の改善を認めます。

③アマンタジン(シンメトレル)・・・パーキンソン病のお薬です。ふるえやこわばりを改善し、体の動作をよくします。また、インフルエンザの治療にも用います。脳梗塞後遺症に伴う意欲、自発性低下の改善を認めます。

④チアプリド(グラマリール)・・・心の不調や不具合を調整するお薬です。神経の高ぶりや不安感をしずめ、気持ちをおだやかにします。また、手足や体の異常な動きをおさえるのにも用います。

⑤抗てんかん薬・・・カルバマゼピンは攻撃性、焦燥性興奮を抑制します。バルプロ酸は行動異常に効果を認めます。認知症のBPSDに有効と報告されるが、科学的根拠は不十分です。

⑥釣藤散・・・全般的な精神症状に効果があり、特に自発性、感情障害に効果的です。

⑦抑肝散・・・妄想や焦燥に効果的です。

 

また偏食、アルコール多飲が背景にある場合は、ビタミンB1、葉酸などの欠乏が背景にある可能性があり、ビタミン補充も有効と考えられます。他にも血管性認知症患者では血管性パーキンソニズムを呈することが多く、動作緩慢、筋強剛姿勢反射障害などに対してレボドパ製剤を試みてもよいですが、顕著な有効性を発揮することは少ないです。