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薬物使用過多による頭痛(薬物誘発性頭痛)
薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛・薬物誘発性頭痛)
片頭痛は持続が 4~72 時間という短期時間の発作性の疾患です。しかし片頭痛発作を長期間繰り返すうちに片頭痛発作特有の「拍動性頭痛」「光・音過敏」「悪心・嘔吐」といった本来の特徴が徐々に消えてなくなり、あたかも緊張型頭痛のような持続性のダラダラした頭痛に変化してくきます。変容片頭痛には上述の2つのタイプがあります。
1つ目は、鎮痛薬を連日使用した結果おきてしまう「薬物使用過多による頭痛」です。
2つ目は、頭痛頻度が次第に増加し本来の片頭痛の姿が変容する「慢性片頭痛」です。
ここでは薬物使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛・薬物誘発性頭痛)を解説します。
疫学
疑い例も含めると一般人口における有病率は1-2%と推定されています。頭痛を主訴に受診する患者の約5-10%がMOHと言われています。成人のみならず小児や思春期の患者にも認められます。男性よりも女性に多いです。乱用される頭痛薬は,NSAIDsなどの鎮痛薬・エルゴタミン・トリプタン・オピオイド・複合薬物があります。このうち、オピオイドによるMOHは本邦では通常問題になっておりません。
病態
「薬物乱用頭痛 (MOH)」は、片頭痛、緊張型頭痛を合併する患者に認められることが多いです。薬物乱用頭痛とは痛み止めを、慢性的に服用することにより起こる頭痛なのですが、不思議なことに群発頭痛の患者に起こることは稀なのです。また関節リウマチなどでは大量に鎮痛剤が使用されるのですが、MOHが問題となることも極めて稀です。これらから片頭痛や緊張型頭痛そのものが、MOHを引き起こしやすい素因となっていると考えられます。本来頭痛を止めるはずの薬が、逆に頭痛を誘発するのか原因は解明されておりません。様々な諸説推論はありますが、難解な上に答えが出ていないお話ですのでここでは割愛させて頂きます。ただ薬剤使用が引き金 となって痛みに対する感受性の亢進(感作)が成立することが一つの原因となっているようです。そして、悪循環のサイクルは、頭痛発作への不安から鎮痛薬を予防的に服用するようになり、飲む回数や量が増えていきます。次第に、脳が痛みに敏感になり、薬が効きにくくなってくるという状態です。
症状
薬物乱用頭痛を疑うエピソードは
「若い頃から頭痛持ち 以前は発作性の頭痛が生じ、鎮痛剤で治っていた。しかし時が経つにつれて薬の効果が失われてきた。そこで薬を変更したり、増量したりするが効果は限定的でスッキリしない。頭痛の性状も変わってしまい連日連夜スッキリしない。頭痛が怖いので、不安から鎮痛剤を服用してしまう。起床時から頭痛があり、鎮痛剤を毎日内服してしまう」このようなエピソードはMOHを強く疑います。ほぼ毎日頭痛が認められ、ほとんどの例が起床時から頭痛に悩んでいます。頭重感、しめつけ感が持続する上に、時折発作性の激しい頭痛が種々の頻度で入り混じるような複雑な頭痛です。部位は一定していません。ほとんどすべての鎮痛剤が効かないか、乱用中の鎮痛剤のみがごく短時間有効といった状態になります。そのため日常生活は大きく制限されています。
月に15日以上頭痛がある |
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頭痛薬を月に10日以上飲んでいる |
起床時から頭痛がする |
以前は効いていた頭痛薬が効かなくなってきた |
薬を飲んでも頭痛が以前より悪化 |
頭痛が不安なので薬を飲んでしまう |
原因薬剤
基本的に全ての鎮痛剤の長期間の漫然とした内服はMOHのリスクです。代表的な原因薬は
①市販の鎮痛薬(カフェインを含んだり、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素が含有されている市販薬はハイリスクです)
②NSAIDs等の鎮痛薬
③トリプタン製剤
④エルゴタミン製剤(使用頻度が少なく少数です)
などがあります。上記①~④を併用している方も多く見られます。トリプタン製剤の処方されている方は、他の製剤より少ない使用回数、かつ早期にMOHに至りやすい傾向があるようです。先述しましたが、片頭痛、緊張型頭痛に多く、緊張型頭痛+片頭痛の混合型の方は、よりMOHの程度が強くなっています。
診断基準
①以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛は 1ヵ月に15日以上 存在する
②1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を 3ヵ月を超えて定期的に乱用し ている
③ほかに最適な ICHD-3 の診断がない
8.2.1 エルゴタミン乱用頭痛 3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的にエルゴタミンを摂取している
8.2.2 トリプタン乱用頭痛 3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的にトリプタンを摂取している
8.2.3 単純鎮痛薬乱用頭痛 3ヵ月を超えて、1ヵ月に15日以上、単一の鎮痛薬を摂取している
8.2.4 オピオイド乱用頭痛 3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に オピオイドを摂取している
8.2.5 複合鎮痛薬乱用頭痛 3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に複合鎮痛薬を摂取している
(日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳:国際頭痛分類 第3版)
診断に際しては、MOHを疑ったら鎮痛剤の使用状況を確認します。1ヶ月に15回以上、もしくは10回以上の定期的な服用が3ヶ月を超えて続いていることを確認します。さらにMOHに陥る前の頭痛の確認をします。不安やうつ病も混在しているので注意が必要です。また頭痛発作の不安から予防的に内服する傾向があるかを確認します。
治療
原因薬剤の中止 |
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薬剤中止後に起こる反跳頭痛への対応 |
予防薬の投与 |
薬物乱用頭痛の治療の原則は主に次の3点です。この3点を分かりやすく説明します。
1. 原因薬剤の中止
2. 薬剤中止後に起こる反跳頭痛への対応
3. 予防薬の投与
1.原因薬の即時中止
薬物乱用頭痛の原因となった薬剤は徐々に減らす方法と、すぐに中止する方法の2種類がありますが、すぐに中止する方法のほうが良好な結果を得られます。しかし実際には原因薬剤を使用しないと日常生活が困難な方もいます。そして中止指示に不安が強く拒否する方もいます。その場合は徐々に減らす方法をとらざる得ないケースがあります。
2. 薬剤中止後に起こる反跳頭痛への対応
原因薬を中止すると反跳頭痛が出現します。反跳頭痛とは原因薬中止後の約2週間は、一時的に痛みが悪化することです。この反跳頭痛を乗り切ることがMOH治療の鍵となります。原因薬中止前に必ず反跳頭痛の情報を与えることが重要です。反跳頭痛に対しては、当然の事ながら原因薬以外の薬物で対応して治療します。トリプタンのMOHならば非ステロイド系消炎鎮痛剤を用い、その逆しかりです。消炎鎮痛剤としては消失半減期の長いナプロキセンの投与を試みる事が多いです。また制吐剤なども使用します。離断症状は約2週間間続くといわれていますが、トリプタン4日、エルゴタミン7日、鎮痛剤10日という報告があります。
3.予防薬の投与
離脱の時期を超えるために予防薬の併用も行います。三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンの有用性は証明されていて臨床の場で安全に使用されます。片頭痛予防に実績のあるバルプロ酸、ロメリジン、プロプラノロールも有効です。チザニ ジンの有効性も認められており, 緊張型頭痛から発展したMOHに使用されます。トピラマートは,片頭痛とMOHが合併した症例において,、頭痛を呈する日数を有意に減少させた報告もあります。離脱に成功してくると、起床時の頭痛が消失し、頭痛のない日が出現します。予防薬は3~6ヶ月間服用後漸減中止とします。多くの例ではMOHを離脱できますが、30%に再発が認められ、特に緊張型頭痛に再発が多いです。