診療予約
眼科 脳神経外科
現在の呼び出し番号
現在の待ち人数
現在の待ち人数

脳疾患を知る

1-2
病院に受診すべき?救急車を呼ぶべき?

ご家族の方が頭を打った時に、「病院に受診すべきか、様子を見るべきか」迷われる事もあれば、「救急車を呼ぼうか、呼ぶまいか」と迷われることがあると思います。これに対して明確な答えを提示することは出来ません。それは受傷の程度と結果は千差万別で、一連の流れが一段落してから「あの時、こうしていたら」はあまり意味がありません。

しかし頭部打撲に対しての受診に対し、多くの議論があることも事実ですので一般的な考えを記載します。私個人の考えは「頭部打撲の程度に限らず、重篤な症状はもちろん、軽微な症状でも不安があるならば受診することを勧めます」。

まず頭部外傷により脳が損傷を受ける病態は二つあります。「直撃損傷」と「対側損傷」です。「直撃損傷」とは器物等で、打撲した部位自体の骨や、その骨の直下の脳損傷を来す場合です。バットが頭に当たり頭蓋骨骨折した・強く頭をぶつけて頭蓋骨骨折を起こし、「骨折に伴い急性硬膜外血腫という病気が起こる」などが「直撃損傷」です。急性硬膜外血腫という病気は受傷直後はほとんど症状がありませんが、時間の経過とともに急速に意識障害が発生し救急搬送され、緊急手術になることがあります。

一方「対側損傷」とは衝撃が加わった部位と対角線の位置に脳挫傷や脳内出血などの脳損傷がおこる現象の事です。とくに後頭部への衝撃に際して前頭葉や側頭葉に脳損傷を生じることが多いです。柔道で投げられる、スノーボードで転倒など後頭部を打撲して回転性の外力が頭部に加わり、脳表静脈の断裂をきたし「急性硬膜下血腫」という病気が起こります。急性硬膜下血腫の死亡率は55%に達します。

頭部外傷を受けた場合に救急車を呼ぶべき症状としては

(1)意識障害

(2)麻痺や失語症の出現

(3)嘔吐

(4)痙攣発作

(5)呼吸障害

としてあげられますが、これは誰が見てもすぐに重篤な状態だとわかります。このような状態は逆に迷う人の方が少ない気がします。皆が迷うケースは意識がしっかりとしていて、一見 大丈夫そうに見えるときでも、病院を受診すべきでしょうかどうかの点だと思います。「気づいたら息をしてなかった」「本人が病院行かないと言うから自宅に帰したら息をしてなかった」などという話を耳にした経験があるかと思います。事実そのようなケースは存在します。また脳神経外科のCT撮影の条件項目には「症状がなくても飲酒者の頭部打撲」が掲げられています。実際に飲酒してほろ酔い気分だけど元気な方のCT を撮影した結果、元気な理由を探すことが困難なほど重篤な急性硬膜下血腫を経験した事もます。CTで頭の中の状況が確認できているため、撮影15分後には昏睡していても迷わず緊急手術を行うことが可能でした。しかし病院に受診しないで自宅で様子をみていたらどうでしょうか?元気にしてい15分後に鼾をかいて寝ていたら「酔っ払って鼾をかいて寝てる」とみるか「急性硬膜下血腫が起きて昏睡状態に陥っている」とみるか、ほぼ前者と考えてしまうかと思います。また遅発性挫傷性脳内出血といい頭部外傷後、特に症状がない時期が24時間から72時間続いた後に徐々に出血していた脳挫傷に浮腫が加わり重篤な状態になる疾患があります。遅発性悪化は、高齢者重症頭部外傷例の 20~30%に及ぶとされ,遅発性頭蓋内血腫や頭蓋内血腫の遅発性増大、挫傷性浮腫の増悪などによって引き起こされます。

またスポーツ中の頭部打撲に脳振盪が多いですが、脳振盪では脳の出血や損傷はなく、大部分は、しば らくすると回復します。ところが、 症状から脳振盪と診断される中には、軽い「急性硬膜下血腫」が紛れ込んでいるようです。出血が少量で症状が軽く、脳振盪と判断してしまいます。このような選手が競技に復帰し、再び頭部を打撲すると、致命的な事態につながりかねないのです。またセカンドインパクトと呼ばれる疾患があります。脳振盪後、さらに頭を打ってしまい、急な脳の腫れや出血をきたす状態のことで、死亡率は50%以上にも上ります。これらをはっきりさせるためには、 病院を受診してCT検査やMRI検査を受けるしかありません。受傷時の状況や受傷後の症状から、頭部への 衝撃が強かったことが推測される場 合は、症状が軽くても専門医の診察 を受けたほうがよいでしょう。

『セカンドインパクト症候群』になるのは、1回目の「脳震盪」から30日以内(平均1~2週間)の時期とされます。そのため、たとえ軽度であっても「脳振盪」を起こしたら、最低でも2週間は安静にし、運動などを控える必要があります。中度や重度であった場合は、2週間以上の休養が必要です。柔道やラグビーの競技団体では、『たとえ脳振盪後に症状が残存していなくても、2~4週間練習を禁止すること』が推奨されています。

 

高齢者では頭部外傷後24時間以上経過して少しずつ脳挫傷をきたす遅発性の脳挫傷があります。また軽微な外傷後3週間ー2ヶ月経過して起こる「慢性硬膜下血腫」という病態があります。「最近元気なく自発力低下した」「最近認知症の症状が出てきた」「左の方に傾く」「うまく歩けていない」等の症状があれば、脳神経外科を受診し頭部CTを撮る必要があります。

これらを総合すると救急車を呼ぶべき基準として先述した

(1)意識障害(2)麻痺や失語症の出現(3)嘔吐(4)痙攣発作(5)呼吸障害

は迷う必要がない症状で、(6)頭痛、頭重感(7)衝撃が強そうだった(8)元気がない、蒼白、食欲がない(9)アルコール摂取時(10)軽い外傷でもなにか気になる

これらの症状があれば救急車を呼ばないまでも脳神経外科の医師の診察を受け、適切な画像検査をすることをおすすめします。