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緊張型頭痛-治療-
非薬物療法
緊張型頭痛に対する非薬物療法にエビデンスを実証した報告は少ないです。しかし副作用も少なく非薬物療法は薬物療法を成功させるための根底となる知識になります。
①誘引の除去
緊張型頭痛では誘引が存在するケースは少なくありません。誘引を避ける事は、頭痛発作の回数を減らすことにつながります。頭痛手帳を記載して、頭痛の誘発、悪化要因を探る事は有用です。
②姿勢や緊張
緊張型頭痛の病態には身体的・精神的ストレスが大きく関係しています。不自然な姿勢や同一姿勢の保持などの身体的ストレスにより起きる末梢性因子と精神的要素や中枢性感作という状態が複雑に関与している事は説明しました。末梢の神経だけの問題から脳の中枢の視床にまで感作が進むと慢性化します。まず作業中の正しい姿勢やこまめな休息を心がけましょう。猫背であごが上向きの人は、背筋をまっすぐにしてあごを引くように心がけましょう。デスクワークを1時間ほど行ったら5分間は休むなど、意識して休憩をとることが大切です。休憩中は、立ち上がって伸びをしたり、少し歩いたりするようにしましょう。スマートフォン、パソコンモニタなど見過ぎてはいないか、適切な距離を保って見ているか確認しましょう。また睡眠時の不自然な姿勢は枕の高さが不適切なケースも多いです。頭が高くなりすぎる枕や沈みすぎる枕を使うと、一晩中悪い姿勢を続けていることになります。毎朝、起きて肩こりを感じる場合は、自分に合った枕の高さを調整しましょう。
③首、肩の血流改善
緊張型頭痛は首や肩の血管の収縮が関与しています。血流を改善することで筋肉のコリや張りを防ぐ対策には、首や肩を冷やさない、ぬるめの風呂にゆっくり入る、日常的な運動の3つがあげられます。首や肩を冷やさないため、夏の冷房などは適切な温度に保ちます。また寒いと感じたら衣服を1枚羽織ったり、首にスカーフを巻いたりしましょう。入浴はぬるめのお風呂にゆっくり入りましょう。
④生活習慣の見直し
片頭痛の治療の際にも述べましたが、日常的な運動や規則正しい生活習慣は頭痛の予防ならず生活習慣病も予防します。日々忙しく暮らしていくうちに食べ過ぎや飲み過ぎ、運動の不足、不規則な睡眠など不規則な生活が長期続いていると様々な弊害が現れます。生活習慣病と言う言葉を耳にする機会が多いですが、生活習慣病の定義を厚生労働省のホームページで確認しますと『生活習慣が原因で起こる疾患の総称。重篤な疾患の要因となる』と記載されています。食事・運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣が深く関与し、日本人の三大死因であるがん・脳血管疾患・心疾患、更に脳血管疾患や心疾患の危険因子となる動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などはいずれも生活習慣病であるとされています。自身が気づかない間に身体を蝕み死亡に直結する病気になる事より、早い段階での予防に医療が積極的に介入すべき疾患です。当然、食事・運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣は片頭痛の発作にも関与します。
・暴飲暴食を繰り返してしまう
・過度の飲酒をしてしまう事がある
・運動を行わない
・睡眠が不規則で平日は睡眠不足。休日は過剰な睡眠
・ストレスが多い
社会生活を営む上でストレスが全くない人生を選択する事は無理ですし、逆もしかりです。その状況の中でも出来ることと言えば生活習慣の見直しです。規則正しい生活リズムを作り、適切な睡眠、適切な食事量、適切な運動量は片頭痛発作の予防にもなりますし、高血圧、高脂血症、糖尿病といった死に結びつく生活習慣病の予防にもなります。一度ご自身の生活習慣を無理ない範囲で改めていく事は頭痛発作以外にも長期的なメリットは大きいです。
⑤日常的な運動
生活習慣の見直しと重なっている項目ですが、全身のエクササイズとは別に頚部、肩周りの運動と考えてください。頭の重さは3-4kgあります。この重量を常に支えているのは後頸筋群という首の後ろの筋肉です。後頸部のマッサージ、ストレッチは頭痛発作の予防になります。また肩まわり、腰まわりのマッサージ、ストレッチも同様です。また肩まわりの筋肉強化も大事です。
薬物療法
発作の頻度と重症度によって薬物治療を行う否かを決めていきます。稀発反復性緊張型頭痛の場合は月に1回程度の頭痛ですので、積極的には薬物治療を考えません。痛みの程度が強いならば鎮痛剤を頓服で考えます。頭痛の頻度が増えてくると薬物治療を検討します。
薬物療法
1 鎮痛薬および消炎鎮痛薬・カフェイン・抗うつ薬
(1)鎮痛薬および消炎鎮痛薬
(2)カフェイン
(3)抗うつ薬(慢性緊張型頭痛に有効とされます)
2 抗不安薬・筋弛緩薬
3 ボツリヌス毒素
1−(1)鎮痛薬および消炎鎮痛薬
頻発反復性緊張型頭痛や慢性緊張型頭痛が対象です。急性期での薬物治療(頭痛発作時の頓挫薬)は、鎮痛薬およびNSAIDsを用います。ただし頻回に鎮痛薬を使用し続ければ薬物乱用頭痛(薬物使用過多による頭痛)の危険性が高まるため、長期間の漫然とした使用は行ってはいけません。鎮痛薬と非ステロイド抗炎症薬 (NSAIDs) は、十分に有効性が証明されている治療法です。緊張型頭痛の急性期治療とし て最も勧められています。本邦で保険適応でもあり、高頻度に使用されているものはアセトアミノフェ ン(カロナール)、アスピリン(バファリン )メフ ェナム酸(ポンター ル)の 3 薬剤となります。患者が妊婦で治療の必要があった場合は、アセ トアミノフェンの使用が勧められています。3 薬剤以外には、イブプロフェン(ブルフェン)、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ナプロキセン(ナイキサン)が使用されています。アセトアミノフェンとNSAIDsについて詳しく記載しますが、片頭痛の急性期治療で記載した内容とほとんど重複しますため、片頭痛の章で読まれた方は飛ばしていただいて問題ありません。
1−(2)カフェイン
NSAIDsとの併用によって鎮痛効果が増強する事が知られています。しかし消化器症状が多い事や高依存率から漫然とした投与を行うべきではありません。
1−(3)抗うつ薬
緊張型頭痛はうつ病を合併しやすいこともあり、抗うつ薬は多くの有効性報告があります。特に片頭痛でも使用するアミトリプチリンを投与することが多くあります。アミトリプチリンは抗うつ薬として保険適応がありますが、片頭痛でも適応がないものの使用が認められております。実際アミトリプチリンはうつ状態の治療に用いることよりも、緊張型頭痛、片頭痛、三叉神経痛、そして頭痛以外の痺れや疼痛に使用されることの方が多いと思われます。口渇、便秘、めまい、眠気などの副作用に十分注意しながら投与を行います。副作用が少ないことからフルボキサミン(ルボックス)、パロキセチン(パキシル)などの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が使用されることも多いようです。しかし過去の報告では頭痛予防に対するSSRI・SNRIの効果は否定的な結果でした。
2−1抗不安薬
抗不安薬の説明は今回初めての事になります。片頭痛編で消炎鎮痛薬・トリプタン等を詳細に説明したように抗不安薬も詳細に記載します。次の項目にまとめておきます。
2−2筋弛緩薬
凝り固まった筋肉の緊張を緩和する目的で筋弛緩薬をよく用います。チザニジン (テルネリン)は多くの報告で効果が認められており、EBMに基づくお勧め度はBランクと多剤よりも推奨度が高いお薬です。エペリゾン(ミオナール)は緊張型頭痛によく用いられるお薬ですが、チザニジンに比べると臨床試験が少ないためEBMに基づくお勧め度はCランクとなります。ダントロレンなどの末梢作用薬と言われる筋弛緩薬には緊張型頭痛に対する有効性の報告はありません。
3ボツリヌス毒素
過去にボツリヌス毒素に関しては、有用性と結論付けた論文は数多く存在しました。しかし、2005年のメタアナリシスの結果では、慢性緊張型頭痛に対して否定的な意見でまとめられています。日本神経治療学会の治療指針によれば『頭痛日数が15日以下の緊張型頭痛では,推奨レベルはグレードC2であり,慢性緊張型頭痛への治療の推奨レベルとしては,グレード C1 と考えられる.』と記載されています。