7-2
コロナウィルスワクチンと血栓症
本邦では新型コロナウイルスに対してファイザー社製ワクチンのみがこれまで接種されてきましたが、2021年5月21日、モデルナ社製とアストラゼネカ社製のワクチンが新たに認可されました。ファイザーとモデルナはmRNAワクチン、アストラゼネカはアデノウイルスベクターワクチンという違いがあります。アストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンには血小板減少症を伴う血栓症(Thrombosis with Thrombocytopenia Syndrome: TTSとして重篤な脳静脈血栓症をきたすことが報告されており、報道によって多くの人々が注視しております。厚生労働省、日本脳卒中学会、日本血栓止血学会は「TTSの診断と治 療の手引き・第2版」を作成したため要点を記載致します。
TTSの特徴
①ワクチン接種後4-28 日に発症します
②頭痛、めまい、麻痺、失語などの症状を呈します。
③血小板が減少します。
④凝固線溶系マーカーが異常値を示します(D-ダイマー著増など)
⑤抗血小板第4 因子抗体(ELISA 法)が陽性となります
などの特徴がが挙げられます。
頻度
TTSの発生頻度は1万人から10万人に1人以下と極めて低いようです。
診断
1)TTSを疑う臨床所見
ワクチン接種後4-28日に以下の症状
①麻痺、失語、めまい、言語障害 など脳卒中を疑う症状
②頭痛、悪心、嘔吐、視野異常 など脳静脈血栓症を疑う症状
③持続する腹痛、悪心、嘔吐 など内臓静脈血栓症を疑う症状
④下肢痛、息切れ など深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を疑う症状
⑤点状出血、皮下出血 など出血傾向を伴う場合もある
2)必要な検査
①CT・MRI・エコー・心電図・血液検査などですが血小板の測定は必須です。また凝固線溶検査:PT、APTT、フィブリノゲン、D-ダイマーは測定が必要です。ワクチン接種後に血小板数低下と血栓症を認めれば TTS の可能性を考える必要があります。
治療
TTSは新しい疾患概念であり、有効性や安全性のエビデンスが確立した治療法は存在しません。保険適応が認められないですが、免疫グロブリン療法、ヘパリン使用を避けヘパリン以外の抗凝固薬、ステロイド、抗血小板薬の中止、血小板輸血の禁止、新鮮凍結血漿使用
(アストラゼネカ社 COVID-19 ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第 2 版 2021 年 6 月 日本脳卒中学会、日本血栓止血学会)