14-1
大脳皮質基底核変性症
概要
大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)は、中年以降に発症し緩徐進行型で、様々な運動機能障害および認知障害を呈する疾患です。原因は分かっていませんが、大脳皮質と皮質下神経核(特に黒質と淡蒼球)の神経細胞が脱落し、タウ蛋白という異常なたんぱくが蓄積する変性疾患です。典型的には、中年期以降に発症し、緩徐に進行する神経変性疾患で、肢節運動失行、観念運動失行、皮質性感覚障害、把握反応、他人の手徴候などの大脳の症状と錐体外路徴候として無動・筋強剛やジストニア、ミオクローヌスなど大脳基底核の症状が左右差を持って出現する疾患です。しかし、剖検例の集積により、左右差のない例、認知症や失語が前景にたつ例、進行性核上性麻痺の臨床症候を呈した例など非典型例が数多く報告され、CBDの臨床像は極めて多彩であることが明らかになりました。。
症状
神経学的には左右差のある大脳皮質と錐体外路徴候の症候を主徴とします。中年期以降に発症し、緩徐に進行する神経変性疾患で、典型的には一側上肢の「ぎこちなさ」で発症し、非対称性の筋強鋼と失行が進行します。
肢節運動失行、観念運動失行、皮質性感覚障害、把握反応、他人の手徴候などの大脳の症状
と
無動・筋強剛やジストニア、ミオクローヌスなどの錐体外路症状が左右差を持って出現する疾患です。
大脳症状
初発の神経症状は上肢あるいは下肢の運動拙劣と異常感覚が多いです。患者は「ぎこちなくなった」「不器用になった」と訴えます。左右差があり、上肢に始まることが多いです。また歩行障害も現れます。運動が拙劣になるとともに動作も緩慢となり、転倒が増えます。
失行が早期に見られるとCBDを疑う可能性が高くなります。失行は肢節運動失行が最も多いです。使い慣れたものが上手に使えなくなり、観念運動失行(指示された模倣動作が出来ない)や構成失行も現れます。把握反射が出現したり、自己の意志とは無関係に自己の手が動く「他人の手徴候 」と呼ばれる症状も現れます。多くは一側上肢から出現し対側上肢、下肢、顔面、口腔に広がります。
錐体外路症状
パーキンソニズムは必発します。典型的には一側上肢の動作緩慢と強剛が出現し、徐々に同側下肢や対側上肢と進展します。振戦が少なく筋強剛、寡動が目立ちます。ジストニアの出現率は40%程で上肢に見られます。ミオクローヌスは30%程にみられ発症肢の遠位に始まり近位に広がります。進行すると核上性眼球運動障害も現れます。更に進行すると構語障害や嚥下障害が出現し、末期には失外套状態となることが多いです。
精神症状
認知症・人格変化が主体で、幻覚・妄想・せん妄はほとんどみられません。意欲低下や抑うつは高頻度に認められる。
診断基準
1.主要項目
(1)中年期以降に発症し緩徐に進行し、罹病期間が1年以上である。
(2)錐体外路徴候
①非対称性の四肢の筋強剛ないし無動
②非対称性の四肢のジストニア
③非対称性の四肢のミオクローヌス
(3)大脳皮質徴候
①口腔ないし四肢の失行
②皮質性感覚障害
③他人の手徴候(単に挙上したり、頭頂部をさまようような動きは、他人の手現象としては不十分である。)
(4)除外すべき疾患および検査所見
①パーキンソン病、レビー小体病
②進行性核上性麻痺
③多系統萎縮症(特に線条体黒質変性症)
④アルツハイマー病
⑤筋萎縮性側索硬化症
⑥意味型失語(他の認知機能や、語の流暢性のような言語機能が保たれているにもかかわらず、意味記憶としての、単語(特に名詞)、事物、顔の認知ができない。)あるいはロゴペニック型原発性進行性失語(短期記憶障害により復唱ができない。)
⑦局所性の器質的病変(局所症状を説明し得る限局性病変)
(5)診断のカテゴリー
次の4条件を満たすものを大脳皮質基底核変性症と診断する。
①(1)を満たす。
②(2)の2項目以上がある。
③(3)の2項目以上がある。
④(4)を満たす(他疾患を除外できる)。
画像所見
画像や検査所見にも左右差がみられるのが特徴です。CT/MRIは初期には正常ですが、進行すると左右差をもって非対称性の前頭葉・頭頂葉の萎縮が認められます。他にも大脳脚や中脳被蓋のみ萎縮を認め、T2WI、FLAIR像で大脳白質の異常容積低下が認められます。他にはSPECTで大脳の集積低下、脳波では症候優位側と対側優位に徐波化がみられます。
病理
①Pre-tangle
②astrocytic plaque
③coiled body
④argyrophilic thread
⑤ ballooned neuron
治療法
根本療法はなく、全て対症療法です。治療の目標症候は、無動・筋強剛、ジストニア、ミオクローヌスです。無動・筋強剛に対してレボドパが用いられます。しかしながら効果はあっても一過性です。ジストニアに対して抗コリン薬、筋弛緩薬が試みられますが、有効性は高くありません。その場合はボツリヌス注射が行われます。ミオクローヌスに対してクロナゼパムが有効です。認知症に対しては、ドネペジルを含めて有効とする報告がないのが現状ですが、合併例や背景病理にアルツハイマー病が含まれている可能性もあり試みても良いと言われます。